呼ぶ声がした。
淡々と機織りを続けていた姫は、手を止め、声が聞こえたほうに顔を向ける。
夏のひかりの差しこむ戸の向こう側から、村の子どもたちが姫をのぞきこんでいた。
男の子がひとりに、女の子がふたり。皆、頬を紅く染め、瞳をきらきらときらめかせている。
「ひぃさま、ちょっと来て!」
ぴょんぴょんと仔うさぎのように跳ねながら手まねきをする男の子に、姫は笑みを浮かべて応じた。おもむろに腰をあげ、戸口へと向かう。
水遊びでもしてきたのか、薄い衣の袖や裾を濡らした少年は、「はい」と姫に手に持っていたものを突きだしてきた。
しめった土と青くさい野草のにおいが、ふわりと鼻をついた。
小さな白紫色の花の束だ。長い茎と細い根も残っている。
「ひぃさまが探していた薬草、見つけたの」
後ろから、女の子が付けくわえた。
姫は「ありがとう」と男の子から薬草を受けとった。
腹部の不調に用いる、使い勝手のよい薬草だ。村人に頼んで、薬草を見つけたら姫の元へと持ってきてもらうようにしていた。
子どもたちはおだやかにたたずむ姫を、まぶしそうに見あげていた。きれいな着物や絵巻物をながめる、おとめのような面持ちだ。
姫は笑みの色をいっそう濃くする。
子どもたちはきゃあきゃあはしゃいだ声を上げながら、四方に散っていった。
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