一時の夢
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 秋も深まり、冬の気配が訪れつつある霜月。
噂に事欠かない宮中では今、近日執り行われる新嘗祭や豊明節会の話で皆の持ち切りだった。今日も貴族の男達があれやこれやと儀式の事について話しており、今の話題は五節の舞姫の話のようだ。


「聞いたか、今年の舞姫には右大臣家の姫が選ばれたらしいぞ」

「へえ。あの美人だが少し変わり者の姫様がか?」


 やれどの姫が出るだのどの姫が美しいだの、思い思いの事を口にしていく。
しかしその中で、先ほどからだんまりを決め込んだように口を開かない男がいた。浅葱色の直衣を纏い、まるで興味が無さそうに視線は貴族仲間に向いているが本気では向いていない。
 それに気づいた男の一人が、肘で男を突く。


「お前本当に女の話に乗ってこないな、隆紀」


 苦笑いを含む男の声色に、隆紀と呼ばれた男は呆れたように小さくため息をついた。


「どこの姫が美しいだの、俺には興味がない」


 この男の名は菅原隆紀。今年少将に昇進したばかりの一貴族で、その硬派な容姿からも分かるように生真面目な男である。夜遊びはせず、今まで一度も女の影を匂わしたことがない。その様は友人達からも心配される程である。だが当の本人は今は女に興味がないの一点張りで全く気にしておらず、周りがなんと言おうとあっけらかんである。


(俺に女など必要ない)


 口ではあの姫が美しいだの何だのと騒いでいるが、結局のところ今共に居る男達も最後は身分で相手を決めてしまうのだ。より高い位に就くためには、結婚し女を利用するしかない。美しと囁かれている女も、いつかは政治に利用されてしまう。
 他人の力を借りて昇進し、あたかも自分の実力のような顔をする。隆紀はその考えがどうも気にくわなかった。


(俺は自分の実力で上へ登ってやる。そのためには、今女に現を抜かしている場合ではないのだ。)


 その鋼のような意思は、到底覆るようなものではなかった。





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