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9.背後に注意(鬼灯/長編:あまのじゃく)

いつ振りかわからない休みの日、いつもよりもゆっくり起きて遅めの朝食をとる。朝から嫌がらせをしてくる上司兼隣人兼恋人は仕事中だし会うこともない。
だから、廊下のど真ん中で後ろから急に抱き締めてきて身動きができなくなる、なんてことはないのだ。ないはずなんだ。

「あの、いつもいつもどこから現れるんですか?」
「後ろ姿が見えたので」
「離してください。私はこれから有意義な休日を過ごすんです……!」

身を捩ってみてもびくともしない。鬼灯さんは私の首元に顔を擦り寄せて、耳元で名前を呼んだ。ぞわりと悪寒がした気がする。そう、これはドキリとしたのではなく悪寒だ。

「離せって言ってるでしょう……!」
「随分遅く起きたんですね。あと1時間もしたら昼ですよ」
「聞こえてないんですか?」
「昨夜は少し無理をさせましたかね」

そう言いながら鬼灯さんは私の下腹部を意味ありげに撫でる。セクハラだと叫ぶより先に、思わず赤面してしまった。これはからかわれる。先手をとらないと負けてしまう!

「何を言っているのかさっぱり」
「では、続きをしますか。実は私は少し物足りなかったんです」

何か言ってやろうとしたのに遮られて迫ってくる。気がつけば近くの空き部屋に押し込まれて逃げ場がない。
あれ、これはまさか追い詰められている?物足りなかったって、あんなにしておいて一体どれだけ……いやいや、考えるのも思う壺だ。

「冗談言ってないで仕事してください」
「追い詰められているのに余裕ですね」
「脅しても無駄です。なぜなら、仕事が忙しくて遊んでる暇はないはずですから」

鬼灯さんの業務スケジュールは把握している。今月もびっちりだ。補佐をしている私がよく休めたものだ。
だから、妙に色っぽい雰囲気を出して見つめてきても、それっぽく触れながら強引に顔をあげさせられても、不意をつくようにキスをされても……いや、それはダメかもしれない。逃げようとしてもがっちり頭を押さえられて離れられない。これは本気で攻めてくるときのパターンに似て……。

「ん、んん……!」

為す術もなく蹂躙され、鬼灯さんは満足したような顔で口元を拭う。立っていられないのを支えられ、近くのテーブルの上に座らされた。

「キスくらいでふらついているようでは、今夜も持ちませんよ」
「今夜ってなんですか、私の部屋には一歩たりとも入れませんから」

いいようにされたのが気にくわない。何だってこの上司は仕事中にこんなことしてるんだ。

「帰ります!あんたはさっさと仕事戻れバカ!」

足腰に力を入れて地面に立つ。ちょっとふらついたけど歩ける。べ、と睨んで部屋を出ると逃げるように自室へと戻った。
逃げるが勝ちだ、断じて負けてなんかいない。今日は部屋に籠城して会わないのが一番だ。

「はあ……」

一息吐いてベッドに転がり込む。ふとさっきのキスを思い出して体が疼く。昨日もあんな風に……って、煩悩は消し去らないと鬼灯さんの思い通りだ。
起き上がって少し乱れた着物を直す。何か気が紛れる別のことをと考えていると、後ろの方からがちゃりとドアが開く音が聞こえた。やましいことはしてないけれど肩がびくりと震えた。振り向くと鬼灯さんと目が合った。

「な、なんですか!勝手に入ってこないでください!」
「あのまま帰すのは可哀想かと思いまして。最後まで責任を持って致そうかと」
「仕事しろ!!」

見透かされてるのもムカつくし、恥ずかしいし、いや、何を言ってるのかさっぱりだけど!乱暴に追い出してドアを閉めると鍵をかけた。すぐに気配は消えて仕事に戻ったのがわかる。忙しいくせして無駄に人をからかって遊んで……!
これは仕返しを考えないといけない。ちょうど暇をもて余していたところだ。どう鬼灯さんに仕返しができるか、何回目かわからないテーマを考えることに貴重な休日を使ってしまう羽目になった。

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