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3

「そう言えば、最近末武が授業に出ているらしいですね」


風紀室で書類を書いていると、隣に座っていた副委員長が長城に話しかけてきた。ふいに出されたその名前に、長城は一瞬体を硬直させる。

「あ、そ、そう、なのか?」
「前はよく喧嘩もしてるし先生の言うことも全く聞こうともしないしで問題児だったらしいんですが、今は全然そんなこともなくむしろ好感度が上がってるらしいですよ。元々すごく頭がよくて、首席入学ですし。あと問題と言えば、格好位かな?人気もすごく上がってきてて、やっぱり生徒会長にって声が多く出てるらしいですよ」


…そう、なのか…。


約束、と言った通り末武は自分を抱いた分だけきちんと授業に出ているらしい。しかもそれだけではなく、むしろ生徒会長にと言われてるほどだなんて。

「あれ?委員長、どうしました?なんか顔赤いっすよ。」
「えっ?は、なん、え?」

副委員長に指摘され、長城はそこで初めて自分の顔が熱くなっていることに気が付いた。

「熱でもあるんですか?ここはいいですから今日は帰ってゆっくり休んでください」
「す、すまない…そうさせてもらう」

副委員長の言葉に、立ち上がった長城はどこか震える体を何とか抑えながらよろよろと風紀室を後にした。
廊下を歩きながら、長城は自分の体の変化が不思議で仕方がなかった。一体、どうしたというのだろうか。さきほどまでなんともなかったはずなのに、末武の話を聞いた途端に胸の動悸が激しくなるだなんて。今でも、先ほどの風紀委員長の話を思い出すと自然と顔に熱が集まる。

これは、あれだ。きっと、自分の身と引き換えに末武を真面目にできたと言うその事実に、その自己犠牲が無駄ではないのだという喜びからに違いない。そうだ、それに違いない。それ以外に、原因などあるものか。

そう自分に言い聞かせながら、長城は自分を抱く末武のその腕を、熱を思い出してますます顔が熱くなっていくのを止められなかった。


「…長城」
「あ…」

ふと目の前の角から、今まさに噂をしていた人物が現れた。末武の顔を見た瞬間どくりと自分の心臓が大きく跳ねる。

「な、なんだ。どうした、今は授業中のはずだろう」
「…先生に頼まれたんだよ。授業で使う資料を忘れたから、この先の資料室に取りに行ってくれって。…ちょうど風紀室の近く通るから、丁度いいかと思ってな…」
「…ちょうどいい?」

動揺を隠しつつ末武に声をかけると、末武は何だか決まりが悪そうに長城から視線を外し若干頬を染めている。一体どうしたというのだろうか。いつもの傲慢な態度からは想像もできない末武に、長城は不思議そうに首を傾げる。

「…これ」

そう言って、末武が長城に差し出したのはクローバーの形をしたキーホルダーだった。そういえば、まだこんな関係になる前に一度だけ会話をしたことがあった。それはかわらず末武が中庭でサボっているのと咎めているときのこと。ふと、末武の寝ころんでいる横に四葉のクローバーを見つけた。

『四葉のクローバーだ。おい、末武。見ろよ。今日はいいことがありそうだ』
『…そんなもん、ただの草だ。枯れちまえばゴミだろうがよ』
『そんなことはないさ。今見た四葉はいつまでも心に残る。いつだって、俺の心にあり続けるから幸せはいつだってそばにあるさ。』

俺、好きなんだ。四葉のクローバー。
そういう長城を、末武は不思議そうに見つめた。



「…コンビニで茶を買ったら、たまたまついてきた。てめえにやるよ。」

そう言って長城に向かってキーホルダーを投げると、背中を向けて行ってしまった。その場に取り残された長城は、いましがた投げ渡されたキーホルダーを見つめていた。

…覚えて、いてくれたのだろうか。あの会話を。


「おい、長城」
「!あ、か、会長」


いつのまにそこにいたのか、目の前には生徒会長が立っていて自分に声をかけてきた。この人も、投票で選ばれただけあってとても整った顔をしている。だが、末武の遥か次点で投票されており、末武が辞退したことによって繰り上がっての当選なのだが。
会長には申し訳ないが、長城はこの男が苦手だった。自分と話をするときに、どこか蛇のような獲物でも狙うかのような鋭い視線をぶつけてくる時があるのだ。その目で見られると、長城はいつもえもしれぬ恐怖にかられ逃げ出したくなってしまうのだ。
キーホルダーを見つからない様にポケットに入れて、会長を見る。何か用だろうか。今日は何の不備も問題も風紀には届いていなかったけれど。

「ちょっと生徒会室まで来てくれ」

言われるまま、長城は会長の後について生徒会室へ向かった。中に入ると、そこにいるはずの他の役員たちが誰もおらず、一体何事かと振り返る。すると、いつのまにそんな近くに来ていたのか目の前に会長の顔があって長城は驚いて後ずさり、ソファに躓いて倒れてしまった。

「…っ、会長!?」

起き上がろうとして、長城は自分の上に会長が覆いかぶさってきたのに驚く。押しのけようとしたその手を取られ、長城はまさか、と顔を青くした。

「いやあ、お前ほんと無防備だわ。いつかって思ってたけど、こんな早くチャンスが来るなんてな。」

俺ってラッキー、とかなんとか言いながらネクタイで長城の手を縛り、さらに馬乗りになって跨りニヤニヤと見下ろす。

「かい、ちょう…、冗談は、やめてくださ…」
「冗談なんかじゃねえよ。今からお前犯すから。ずっとずっと狙ってたんだよなあ、お前の事。俺の熱い視線、感じてたろ?毎回わかりやすくビビりやがってさ。どんだけ押し倒すの我慢してたと思ってんの」

服の上から胸を撫でられ、ひ、と引きつった声が出る。なんで。どうして。

「俺さぁ、来季、会長じゃなくなるかもしんないんだよね。知ってる?末武。あいつ、何でか知んないけど今やたら真面目ぶって先生たちから好感もたれてんじゃん?なんかさあ、学校の奴らもちょっと末武がいい顔してっからって『会長に』とか言い出すしさあ。冗談じゃねえっつうの。」

長城の体を撫でまわしながら、忌々しそうに舌打ちをする。それと、この行為と何の関係があるのだろうか。長城は混乱する頭で必死になって逃げようともがいていた。

「だからさ、ならもういいやって。会長降ろされちゃうんならさ、その前に今ある権限は有効に使っとこうって。この部屋は生徒会以外立ち入り禁止。そして、俺たちは授業免除の為ただ今他の皆はお利口さんに勉強中。…格好のヤリ場だろ?」


そう言って、ぎらぎらとした目を向け舌なめずりをする会長にぞっとした。

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