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5

「…!」

「あ〜!なに、涼介!その子だけずるいよ!」
「僕にもしてよ〜!なに、涼介はその子が好きなの!?」

口づけられた子は真っ赤になって下を向き、周りの子たちはきゃあきゃあと我も我もと涼介に群がっている。俺はと言うと、息をするのも忘れるほど固まってしまって。そんな俺に気付いているのか、涼介は反対隣の子の方へ向くとその子にも口づけた。

「この子だけじゃないよ〜、俺は皆がだぁい好きだからさ。皆が俺のこと好きだって言ってくれてお祝いしてくれたのが嬉しかったから、そのお礼だよ〜」

俺にしか、もらえなかったはずの涼介の口づけは。涼介にとってはお祝いをして好きだと言ってくれる子皆がもらえるご褒美だったのだ。


それからの事はよく覚えていない。気が付くといつの間にか皆部屋からいなくなっており、俺は一人散らかった部屋の片づけをしていた。
皆を玄関まで見送っていた涼介がリビングに戻ってくる。俺は黙々とゴミをゴミ袋に詰めていた。

「翔〜、今日はありがとね〜。俺すっごい嬉しかったあ」
「そうか、よかったな」

片づけをする俺の背中に抱きつき、へらりと笑う涼介に抑揚のない言葉を返す。振り向かない俺に怒っていると思ったのか涼介が肩から俺を覗き込んだ。

「ね、翔。ごめんね?怒ってる?」
「別に怒ってない」

本当に、普通に返す俺をいつもと様子が違うと少し不思議そうに体を反転させて正面に向けた。

「うそ。じゃあどうして俺を見てくれないの?ね、翔。誕生日、お祝いしてくれるんだよね?」

にこりと笑うその顔に、俺はもう何も感じなかった。

「…お祝いならしただろう。皆がお前を祝ってくれたじゃないか。それ以上何を求めるんだ?」
「翔?何言ってんの、皆は皆だよ。翔は違うでしょ?俺の恋人だもんね?」
「…こいびと?」

はは、と自嘲気味に笑う俺に涼介が怪訝な顔をした。

「…お前にとっての恋人ってのはあれか。浮気相手にごちそうを振舞ってお前の都合のいいように利用できる人間のことを言うのか」
「なに言ってんの?」
「もう、いい。今度こそ本気で冷めた。…終わりにしよう、涼介」


俺の言葉に、涼介が息をのんで目を見開く。ひどく動揺しているように見えるのは気のせいだろうか。

「…な、に、言ってんの…?終わりって、なに…?嘘だよね?ね、翔、ごめん。今日の事怒ってんだったら謝るからさ。ほんと、皆に翔を自慢したかっただけなんだよ。俺の愛してる人はすごいだろって…。ね、翔。愛してるから、許して。ほんとに愛して…」

「俺はもう愛してない」

涼介の言葉を遮り、きっぱりと告げる俺に涼介が顔を真っ青にした。

「う、そ…。うそ、嘘だよね、翔。ね、いつもみたいに怒ってよ。そんで、俺も愛してるって言ってよ。ねえ、翔、ねえ…!」

俺の態度に今までとは違う何かを感じたのか、必死になって涼介が俺の肩を掴み何度も俺の名を呼ぶ。もう遅いんだ、涼介。俺の心はもう何も感じなくなってしまったかのようにすう、と冷たい風が通っているのがわかった。

「本気だ。ごめんな、涼介。俺はもう無理だ。お前の事好きだったから、何でもしてやりたかった。ずっと側にいたかった。でも、もういい。もういいんだ。今までありがとう。楽しかった。…お別れだ」

今までみたいに、泣きわめくでも怒鳴るでもなく。ただ、淡々と別れを告げる。
涼介がさらに目を見開いたかと思うと、俺を掴んでいた肩を思い切り押して床に押し倒した。

「つっ…!」

床に倒されて背中を打った痛みで顔を歪ませると、それ以上に顔を歪ませた涼介が俺に覆いかぶさってきた。

「だめだ、だめだだめだ!許さない、そんなの許さない…!翔、翔かける…!翔は俺のだ、別れるなんて許さない!」

言うなり、倒れた俺の唇を噛みつくように塞ぐ。口内を嘗め回されるのを感じながら俺はああさっきこいつ何人とキスしたんだっけなんてぼんやりと考えていた。
抵抗もせず特に乱れもしない俺をしばらく無理やり深い口づけで押さえつけていた涼介が震えながら唇を離す。


「なんで…?なんでいつもみたいに、とろんってならないの…?お願い、翔、ちゃんと俺のキスに応えてよ…」
「…さっきも言ったけど、俺はもうお前を愛してない。だからいくらキスされても何も感じない。」


俺の言葉にひどく傷ついた顔をしたかと思うと、涼介は今度は俺の来ている服を引き裂いた。そして、俺の胸に舌を這わす。尖りを舐められ、思わず口から甘いと息が漏れると涼介は嬉しそうに笑い俺の顔を覗き込んだ。

「うそつき。ちゃんと感じるじゃん。ね、翔。愛してる。愛してるから許して?今からはもう二人きりなんだからさ、うんと優しくするから…」
「…感じるのは物理的反応であって別にお前を好きだからなわけじゃない。誰だって嫌いな奴にでも性感帯を触られると反応はするよ。…俺を抱くつもりなら好きにすればいい。でもそれで終わりだ。終わったら俺はこの部屋を出ていくから」

先ほどの嬉しそうな顔が見る見るうちに青くなっていく。俺の本気を感じたのか、涼介がその目に絶望の色を浮かべて俺を見つめた。

「しないのか?」

一切の動きを止め、俺の上でただじっと俺を見つめる涼介に問いかける。涼介はゆるゆると首を振り、泣きそうにそのきれいな顔を歪めた。

「…だって…、抱いたら終わっちゃう…」
「抱かなくても終わるよ。どちらにしろ俺はもうお前とはいられない」

動かない涼介の体をゆっくりと押し、床から起き上がると裂かれたシャツを脱ぎ捨てて先ほど集めたごみ袋の中に入れる。立ち上がって自分の部屋へ行こうとした俺の手を涼介が掴んだ。

「…お願い。翔。お願いだから許して。ほ、ほんとに、翔が好きなんだ。愛してるんだ。翔、翔だけ…!お願いだから俺を捨てないで…!ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!」

ぼろぼろと涙を流し必死に懇願する涼介を見て意味が分からなかった。なんでこいつはこんなに必死に俺を引き止めるんだ?どうでもいいから浮気したんじゃなかったのか?
そんなに愛してるって言うなら、なんで浮気ばっかりしてたんだ!

「嫉妬、させたくて…」

涙を流しながら、涼介がぽつりぽつりと話し出した。

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