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11

「堤ちゃーん!俺にも!俺にもお茶入れてよー!」

まるで助けて!と言わんばかりに泣き言のように叫ぶ会計の頭をがしりと掴み、堤に向けていた顔を無理やりぐぐぐと力任せに振り向かせるのは会計の親衛隊隊長だ。

「だめですよ。あと一枚書類が残っているでしょう?何都合よく逃げようとしてるんですか首をこのままもがれたいですか?」
「ごめんなさい!」

冷ややかな顔のままさらりと言われ会計が顔を青くして再び書類に向かう。もともとこの人はクールだと評判で、会計様のために!をモットーに親衛隊長として一線を引いていた。だが、今回の事で自分が甘やかし過ぎたせいだと自責の念に駆られ、本人いわくあえて会計のために冷たく手荒く接するようになったのだそうだ。

「お、おい。俺様も少し休憩をだな…」
「はぁ?休憩?どの面下げて言ってんの?お前昨日もそう言って何回休んだと思ってんだよ。寝言は寝てから言え」

会長よりもさらに俺様口調で毒舌を吐くのは会長の親衛隊隊長だ。どうやら中等部からの仲らしく、会長に頼まれて親衛隊隊長になっていたそうだ。今までネコを被っていたそうで、その本当の中身は実は超のつくほど自己中な性格らしく、会長が白河に夢中になっているときも自分に害がなければ問題ないとほっておいたそうだ。

今回の事件で反省した会長が隊長に謝罪をしたときも、「あんたがいなくても俺は困らないんで」と言われ、ショックを受けた会長は二日ほど寝込んだらしい。

二日目に、周りの隊員に促され嫌々ながら会長を迎えに行ったそうだ。


「「ねえねえ、休んじゃだめ?」」
「ん〜、頑張ってあと少しだけお仕事しましょっか。ね、お二人ならできますよ。」


どSな二人の隊長とは対照的に、優しく仕事を促すのは庶務の双子の親衛隊隊長。
一年先輩の彼は双子を一生懸命世話するお兄ちゃん的存在だった。



書記の横には、幼なじみである親衛隊隊長がしっかりとサポートについている。



生徒会役員たちはそれぞれ、自分を一番支えてくれていた親衛隊隊長に、謝罪の後改めて頭を下げて仕事の補佐を頼んだ。各親衛隊隊長たちは、真摯に謝罪する彼らのこれからを信じることにした。

中には、事件のせいで吹っ切れて今までの態度をがらりと変えた隊長もいるが、この隊長が役員の横について仕事をサポートする光景は、今まで当たり前にここにあった以前の生徒会室であった。


「じゃあ、あと少しでちょうど区切りになりそうなのですぐにお茶に出来るように用意してきますね。」
「はあ…。あなたは役員たちに対して優しすぎますよ。」
「しょうがねえな。おら、バ会長。それ終わったらちょうど一服だとよ。」

堤が立ち上がると、親衛隊長たちがおのおの自分のサポートする役員たちに声をかける。それを聞きながら、優しいのはあんたたちの方だよ、と堤は心の中で思う。だって、誰もが結局、自分の好きな役員たちのためにこうして力になろうとしているのだから。


「恭平、私も行きます。」
「…相田様」


生徒会室に備えられた給湯室と呼ぶには設備の整った部屋に向かうと、相田が堤を追いかけてきた。一緒に部屋に入り、パタンと扉を閉めてにこりと微笑む。

「いいんですか?お仕事は…」
「私は一区切りついたので大丈夫です。さ、手伝いますよ。」
「…ありがとうございます」

二人並んでお茶の用意をするその時間に、相田は口元に思わず微笑みを浮かべる。

もう一度、振り向いてもらうために。

そう言ってから相田は今まで付き合っていた時よりも自分から進んで堤の事を手伝うことが多くなった。思えば、堤と付き合っているときにこうして二人で何かをしたことなどなかった。

好きな人と一緒に何かをするというのは、こんなにも幸せなものなのか。

やってもらってあたりまえだとなんの感謝も捧げなかった自分をこっぴどく叱ってやりたい。相田は、二人の間に流れる穏やかな空気に胸が温かくなるのを感じた。

「おや、お茶が残り少ないですねえ」

そう言ってふと堤に視線を向けると、堤が気付いて目を相田に向ける。そして、少し恥ずかしそうにはにかむ。


それ以上は、何も言わない。今はまだ言えない。

二人は、まだ正式によりを戻したわけではない。
付き合っている恋人ではないのだ。



「相田様」
「はい、なんですか?恭平」
「…今度、お茶を買いに出かけませんか。一緒に。」
「…!」

それでも、もう一度この人の手を取りたいと願う。今日の様に、共に隣に立って並びたい。



だから、少しづつ。今度こそ、間違わない様に。


「ええ、喜んで。」


以前から使用していたお揃いのマグカップにお湯を注ぎながら、二人は揺れる湯気の中そっと寄り添った。


end

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