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10

しっかりと、堤と目を合わせ相田がベッドから足をおろし堤の目の前に立つ。そこにいる相田は、死にそうな顔で今にも消えてしまいそうな雰囲気だった先ほどからは想像もつかないほどに凛として力強かった。

「恭平。君はさっき、友美に言いましたね。『自分が相手を好きなことに気付いたら、今度は自分が相手を振り向かせるために努力すればいい』と。だから、そうします。君を愛しているから、
…今度は、私が君にもう一度振り向いてもらうために努力します。」

にこりと微笑んだ相田には、もう一切の迷いなどなかった。
誰もが、言葉をなくし相田と堤を見つめていた。堤は、今しがた自分に向けて伝えられた相田の言葉を何度も何度も脳内でかみしめる。

「…俺、こんなんなんですよ?顔も平凡だし、頭もさほどよくないし」
「私にはとても愛らしい顔に見えます」
「ひ、卑怯者で、臆病者だし…」
「それは私の方です。私の為にと尽くしてくれていたあなたをいとも簡単に切り捨てその目の前で堂々と他の人間を口説き、あなたにひどい言葉を浴びせたのですから」
「…ひねくれ者で、やけくそになって…、八つ当たりみたいに、白河に…」
「あなたにそうさせたのは私です。」

俯いて泣きそうな堤の顔を上げ、相田は優しく微笑んだ。目に浮かぶ涙を必死にこらえていた堤は相田の微笑みに、ぽろりとその雫をこぼした。

「…俺も、努力します。もう一度…、今度こそ、あなたにふさわしくなるために。誰に何を言われようと、堂々と自分があなたの恋人であると言えるように。」

今すぐに、お互いを受け入れるのではなく。もう一度、決して今度こそ離れるようなことにならないために。

堤の言葉を聞いた相田は、そっとその存在を確かめるかのように堤を抱きしめた。



「あ、相田くん!そ、それでいいの!?そんな、そんなの、おかしいよ!か、勘違いだったからって、僕にそんなこと言うなんて…僕を好きなんじゃなかったの!?」
「やめろ、白河」

目の前で抱き合う二人を引き離そうと白河の伸ばした手を摘み、制したのは白河信者である生徒会長だった。

「もう、いいだろう。お前は相田に答えを出さなかったんだ。相田は、答えを出した。きっと、友人としてこれから先付き合ってくれるだろう。『今のままじゃダメ』なのか?相田は、お前の事を好きでいないといけないのか?」

会長の言葉に、白河はぐっと黙る。目を泳がせ、口をもごもごと動かしてなにか反論しようと必死に考えているように見えた。
そんな白河の様子に、会長は目を伏せてため息を一つこぼす。


「…俺も、ちゃんとお前の姿を見ていなかったんだな。もう一度、ちゃんと考えることにする。堤、すまなかった。」
「…!か、会長…!」
「「会長!どこ行くの!?」」

白河の手を離し、堤に頭を下げて部屋から出て行こうとする会長に同じく取り巻きであった生徒会のメンバーが声をかける。

「どこって、生徒会室だ。今やっと目が覚めた。俺たちが本当にしなければいけないことは何だった?…白河は、確かに俺たちの光に見えた。疲れ果てていた俺たちを、何もしなくていいと言ってくれた。だが、投票で選ばれたとはいえ辞退せずにそれを選んだのは俺だ。俺たちに与えられた特権は、決して好き勝手なことをするために与えられたものじゃなかったはずだ。」
「か、会長までそんなこと…!どうして!?嫌な仕事を押し付けられて、自分のやりたいことを我慢して、それでいいの!?」
「ああ、それでいい。」

部屋を出て行こうとする会長を、必死に白河が引き止める。それに会長は揺るぐことなく前を見て答えた。

「確かにしんどい思いをしたさ。だが、それをずっと支えてくれていたやつがいることを、今思いだした。俺たちに必要だったのは、ただ甘やかして好き放題させてくれる人間じゃない。…支えて、一緒にしんどいことを乗り越えるために助けてくれるやつだった。そうだろう?相田。」

会長に問われ、堤を抱きしめたまま相田が微笑んで頷く。それを見た他のメンバーたちは、それぞれ自分が今まで仕事をしてきたときに傍にいてくれた人たちを思いだした。


「どうして!皆、皆間違ってる!僕、僕は君たちを解放してあげようと思ってたのに!僕のことを好きなくせに、僕から離れようとするなんて間違ってる!僕から離れたら、後悔するんだから!僕みたいに優しくてかわいい子なんて、そんな簡単に手には入らないんだからね!」

負け惜しみのように言い放ち、白河は皆を押し退けて部屋から飛び出していってしまった。白河の去ってしまった方を見つめたまま、そこにいた皆は呆然としていた。

「うわ…、なんか、一気に冷めた…。なに、今の。ともちゃんって、あんなに自分に自信のある子だったんだ。」
「「…ぼくたち…、何も見えてなかったんだね…」」

白河の去った先をショックを受け見つめる面々を、会長が軽くその頭を叩く。

「さあ、サボってる暇はないぞ。今までの分を取り戻さねえとな。…多分、俺たちの信用は地に落ちてるだろうからな。おい、堤。」
「は、はい。」
「…今まで、悪かった。謝ってすむ問題なんかじゃねえが、もう二度とあんなことにはならないと誓う。許してくれるか?」
「ご、ごめんね…」
「「ごめんなさい…」」

会長が謝罪すると同時に取り巻きであった皆が一斉に頭を下げる。それを見た堤はきゅ、と唇を一度噛んでから口を開いた。

「…あなた方が真っ先に謝らなければならない人は、俺じゃないんじゃないですか?俺への謝罪は、その後ですよ。」

堤と同じく、彼らそれぞれにいる親衛隊。そして、この学園にいる生徒たち。皆が皆、いつか自分たちの元へ戻って来てくれると信じ待っているのだ。

「すべてが終えてから、来て下さい。その時にお話を聞きますよ。」

堤の言葉に頷くと、会長をはじめ役員たちはぞろぞろと部屋から出て行った。



その後、会長たち生徒会役員が全校生徒に謝罪。堤の自主退学の申請は、担任が自分のところで止めていたために取り下げられていた。

白河は、しばらく同じように会長や相田たちに引っ付こうとするが全く相手にされないことに気付き早々に学園を去っていった。



「失礼します」

コンコン、とノックをし、部屋の扉を開けると相田が素早く顔を上げる。

「お疲れさまです。先生から資料を預かってきました」

にこりと微笑み、手に持つ封筒を差し出す堤に相田も笑みを返す。

「ありがとうございます。」
「お疲れでしょう?少し休憩されませんか、お茶を入れてきますよ」

首を軽く傾けて自分に微笑みかける堤に返事をしようと口を開けた相田よりも先にその二人の間にただよう穏やかな空気を打ち破ったのは会計だった。

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