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8

「気分はどうですか?」
「…悪くはありませんが…」


ここは、と発する前にキョロキョロと見渡し、相田は自分が寝ているベッドが自分の物ではないことに気付いた。

「…ここは、あなたの…」
「そうです。俺の部屋です。」

堤はベッドサイドで椅子に腰掛けながら淡々と返した。それに、相田が驚いて起き上がろうとして自分の右手が温かいもので包まれていることに気付く。

「あ…」
「あの後、副隊長に頼んで一緒に俺の部屋にあなたを運んでもらいました。めちゃくちゃ軽くてびっくりしましたよ。ろくにご飯食べていなかったんでしょう。」

その温かいものが、堤の手だと言うことに気がついて堤と手を何度も見比べる。
困惑する相田の手を、堤がぎゅっと力を込めて握りしめた。


「…相田様。すみませんでした。俺は、…俺も、卑怯者でした。いつか気付いてくれる。いつかわかってくれる。そう思って、きちんとぶつかることをしなかった。言えばよかったんだ。必死に訴えて、それでだめな時にこそ諦めればよかった。何もしなかったから、こんなにも卑屈になることしかできなかったんだ。だから…」
「あ、相田くん!大丈夫!?」

突如として堤の部屋に、ノックもなしに現れたのは信者を引き連れた白河だった。二人を見るなり、眉を下げて傷ついたような顔をする。

「あ、相田くんが倒れて、堤くんが自分の部屋に連れて行ったって聞いて…。だ、だめじゃない。どうして君のベッドになんか寝かせるの?こ、恋人じゃなくなったんなら、そんなことするのおかしいと思う。」
「白河」

正論のように堤を責める白河に、堤が立ち上がり正面に向かう。

「はっきり言えばよかったんだ。白河。俺と相田は、付き合ってる。恋人同士だって言ったよな?だから、二人きりの所にわざと入り込んでくるのはやめてほしい。相田と馴れ馴れしく話さないで。俺と相田の間にわざと入ってこないで。二人の時を邪魔しないで。」
「…!そ、そんな、そんなつもりじゃ…!僕はただ、友達として…」
「お前のやってることは友達として許せる範囲じゃない。ただ人の恋人を横から奪おうとしているだけにしか思えない。だからやめてくれ。迷惑だ。」


きっぱりと言い切る堤に、白河は大きな目をさらに大きくさせて何かいいたげに口を開閉させた。まっすぐに見据えたまま、目をそらすことのない堤の態度に戸惑っている。

「め、迷惑してるのは、相田くんじゃないかな。だって、きみ、振られたんでしょう?恋人じゃないのに、そんな未練がましく、す、好きだからって、相田くんが好きな僕にヤキモチ妬いて意地悪言うの、間違ってると思う!」


堤は、その時に初めて白河の顔を正面から見て気がついた。同室になってから今まで、こんな場面は幾度も見てきたはずだったのに。
白河が、涙を浮かべながら自分の意見を言うのを、必死になって間違っていることを訴えるのを、見てきたはずなのに。



今目の前にいる白河のその顔は、優越感と蔑みに溢れていた。



真摯に、健気に頑張っているように見えたその姿の、本当の姿は、全てその顔に出ていた。

その顔を見ながら、上手いもんだなぁと堤は感心した。軟弱なふりをしながらその実非常に狡猾な手口であたかも自分が被害者であるかのように、聖人君子であるかのように振る舞っていたのだと今改めて、やっと確信できた。

今気付いた所で、全て遅いのだろうけれど。


「…そうだな。恋人でもない俺が今更言うことじゃないな。」


自嘲気味に笑い呟いた堤に、白河はそれみたことかと言わんばかりに顔を歪ませた。
対して、相田はベッドの上で堤の吐いた最後の言葉に顔を青くさせていた。

ちがう。ちがうんです。今。今やっと再び向かい合うことができたのに。

「恭平っ…!」
「…白河。じゃあお前はいつまでそこにいるつもりだ?」


また自分の目の前からいなくなるのではないか。そう思い、必死に堤の名を呼んだ瞬間、堤が相田に制止の意味で手を向けながら白河に向かって問う。


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