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「私は、彼らの母親であり、父親。血のつながっている子は一人もいないわ。それでもね、皆本当の兄弟、ううん。それ以上に強い絆で結ばれている家族なのよ。」
「うそだ!」
女性の言葉に野々宮が勢いよく立ち上がった。
「そんなのうそっぱちだ!絆なんてあるもんか!血がつながってても、うまくなんていかないのに!」
肩で息をする野々宮に、女性はそっと近づき頭を撫でた。
「…泣いてもいいのよ。言いたいことは全部吐き出しなさい。」
頭をなでながら、自分の目をまっすぐに見る女性に野々宮は胸がぎゅっとなった。
「なにが、家族だよ…。言いたいことなんて、ちっとも…」
女性は無言で微笑みながら、野々宮の頭を撫で続けた。
温かい。優しい。
野々宮はぎゅっと目をつぶると、ぽろぽろと涙を零した。
「う…、ひっ、く…、」
ずっと、こうしてほしかった。ごちそうを1人で食べたり、夜豪華なベッドに1人潜り込むのではなく。
人として触れてほしかった。
「あー!お兄ちゃん泣いてるー!」
「どーしたの?どっかいたい?」
「大丈夫?」
お茶を持って帰ってきた子供たちが、野々宮を見て心配そうに取り囲んだ。
「大丈夫よ。さ、今日はお兄ちゃんも一緒に晩御飯食べますって。」
「やったー!」
それを聞いて本当に嬉しそうに喜んでくれる皆をみて、野々宮は初めて心から笑った。
それからというもの、野々宮はその家に時間があれば入り浸りになった。
ここが、本当の俺の家。俺の家族。こいつらさえいれば、なにもいらない。
野々宮は、中学三年になったときにある決意をした。野々宮の会社になんか興味はない。本当にしたかったことをしよう。元々野々宮は医薬品の研究、開発に興味があった。それは孤児の家の母が病弱であるための影響が大きいのだが。
いつか、母のための薬を作りたい。そう願っていた。
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