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3

デート当日。待ち合わせ時間に現れた恋人を見ながら何度も時計をちらちら見る。

今は10時5分。もう皆保育園に着いてるころだろうか。

「綾小路くん、どうしたの?」
「あ、いや、何でもないよ。ごめん」

10時15分。
ペンギンか。着ぐるみだろうか。俺が行ったら、鉄二はどんな顔をしたかなあ。

「綾小路くんっ!また違うこと考えてるでしょ!」

恋人に怒られてはっとする。

「ご、ごめん。ちょっとぼぅっとして…」
「もうっ!綾小路くん、ひどい!僕のこと好きじゃないの!?」
「い、いや、そんなことないよ!」


プルルルル


好きだよ、と続けようとしたら俺の携帯が鳴った。
兄貴だ。

「ちょっとごめん」

僕がいるのに電話に出るなんて!とぷりぷり怒る恋人を宥めながら通話ボタンを押す。

「はい」
『…』

返事がない。なんだ?故障か?
もう一度、もしもし?と問いかける。

『…いぶ?』
「鉄二?」
「ちょっと!鉄二って誰!?」

俺が口にした名前で恋人が横からぎゃあぎゃあとわめく。耳を塞ぎ、携帯を耳に当てる。

「どうした?そろそろ出番じゃないのか?」
『…いぶ、くる?てちゅとこ、くる?』

泣きそうなか細い声。全身が粟立つのがわかった。

『もしもし、一颯か?デート中すまない。着替え中の控え室でお前をキョロキョロ探してな。お前は用事があるから来れないと言ったんだが、ちびこぐがどうしても直接聞かないといやだと泣き出したんだ。すまないがお前から直接今日は無理だと宥めてやってくれないか』


俺を、探したの?
鉄二、俺に来てほしいの?


「綾小路くんっ!」

大きな声で呼ばれ、慌てて意識をそちらに戻す。通話口に手を当て、恋人を見ると眉をつり上げ鬼のような形相をしていた。

「ごめん、いとこの子が…」
「いとこの子と僕とどっちが大事なの?今日は1ヶ月記念してくれるんじゃなかったの?もういいよ、綾小路くんがそんなんなら僕ほかの子と浮気しちゃうから!
僕のこと好きだって言って今日も遊びに誘ってくれた子いるんだからね?その子に連絡しよう、っと」

俺の言葉を遮り、一方的に言い放つと小悪魔的な眼差しで挑発的に見ながら携帯を操作しだした。

「ほら、僕ほかの男に連絡しちゃうよ?とめないの?」
『いぶ…』

ふと、少し離している携帯から鉄二の声が聞こえた。


「待ってて」


一言だけ落とし、通話を切る。

「綾小路くん…」

してやったり、と言った顔でわざとらしくうるうると見上げてくる恋人。

「ごめん、俺、行くわ。」
「な…!」


綾小路くん!と叫ぶ恋人の声を背に駆け出した。確か保育園はここから一駅向こうって聞いた。
電車の時間を考えたら走った方が速い。

拗ねる恋人の顔と、鉄二の泣きそうな声。



どっちが大事?



俺は夢中で走り続けた。

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