父、現る
「え?一緒に?」
こくこくと目の前で頷く紫音に晴海はへにゃりと顔をゆるませる。
夏休みの迫ったある日、いつものように皆で屋上でご飯を食べているときに夏休みはどう過ごすかの話題になった。寮に残るもの、実家に帰るもの、それぞれいる中晴海と克也は今年は双子の予定を聞いてから夏休みの計画を立てようと思っていた。
まだ双子の入学していない去年、二人は夏休みには実家に帰り海の家でバイトをしていた。
今年もそのつもりでいたのだが、かわいい恋人がいるのに夏の間中離れているだなんてとんでもない、と夏休みは双子と過ごすつもりでいた。
聞けば双子は夏休みには最低二週間は実家に帰るようにと言われたらしい。
「昨日、パパから電話があったの。それでね、パパが『梨音と紫音に会えないとさみしいよ〜』って泣くから、しーちゃんと二人で帰ることにしたんだけどね」
「お父さんに、『学校はどうだ』って聞かれたから、大好きな人ができたよって言ったら『遊びに連れておいで』って」
大好きな人。
紫音の言葉に晴海の目尻がますます下がる。隣では克也が梨音に向かって『り、梨音は俺のことなんて言ったんだ!?』
なんて焦りながら聞いている。
「俺も紫音ちゃん大好きだよ〜」
締まりのない顔をしながらぎゅうぎゅう抱きしめ、ふと疑問がわいた。
そういえば、紫音ちゃんのお父さんって、すっげえ親バカじゃなかったっけ…?
なんせ息子の初射精を手伝うような人だ。それはもうちょっとトチ狂ったくらいの愛情を二人に注いでいるはず。
「せんぱい?無理ならいいよ、お父さんにちゃんとお話しとくよ。」
腕の中で心配そうに晴海を見上げる紫音に、にこりと微笑んで首を振る。
「大丈夫!うれしいよ、紫音ちゃんのお家にご招待されるなんてさ。ちゃんとご挨拶しなきゃね。な、克也。」
「…ああ、そうだな。」
同意を求め視線を向けると、きっと自分と同じ不安を抱いているであろう克也と無言で頷きあった。
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