2
町のはずれにある寺に入る。
この2年で、ようやく墓が買えた。
そんなに大きくないが、あとは俺が入るんだ。
兄弟二人ならそんなに大きなものでなくていい。
水をくみ、弟の墓の前まで来てはたと足を止める。
…花が、飾られてある。
まだ新しい、生けたばかりのようだ。
一体誰が。
弟の墓のことは、俺とマスターと住職しか知らないが、マスターはまだ店にいたはずだ。
「遅いぞ」
後ろからふいにかけられた声に、すべての機能が停止する。
…嘘だ。そんなはずはない。
じゃり、じゃりと近づく足音に、動くこともできずに立ちすくむ。ふと、足音が隣で止まった。
ふわり、と漂う懐かしい香りに胸が締め付けられる。
ゆっくりと隣に顔を向け、まっすぐに弟の墓を見つめるその美しい顔を見た。
「ゆき、ひとさま…」
「『様』はいらない。お前はもう執事じゃないだろう」
幸人様が俺の手から水の入った桶を取り、墓に水をかける。
そして桶を地面に置くと、しゃがみ込んで静かに墓前に向かい手を合わせる。幸人様が行う一連の動作をただ無言で見つめた。
しばらくして、ゆっくりと顔を上げた幸人様が立ち上がり、俺の目の前に立った。
「…ばか正明」
幸人様の手が、俺の頬に触れる。
何度も何度も確かめるように撫でながら、もう片方も俺の頬に触れた。
「正明…。ばか、ばか正明…!ばか…っ!」
「…ごめん」
『ばか』を繰り返す幸人様に謝ると、途端にくしゃりとそのきれいな顔を歪ませて俺を抱きしめた。
「会いたかった…!
どれだけ探したと思ってんだ…っ、
正明の、ばかやろお…っ!」
2年ぶりの幸人様のぬくもりに、じわじわと胸が熱くなる。
…探して、くれたの…。
こんな俺を…?
「ゆき…」
名前を呼ぼうと口を開くと同時に、思い切り口づけられる。
2年ぶりの口づけはとてもしょっぱくて。
ああ、幸人様を泣かせちまった、
なんてぼんやりと考えてたらゆっくりと離れて額をこつんと合わせられた。
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