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「いえ、なんとなく。
もしかしてこの雷で幸人様が怖がってるんじゃないかと思って」

いつもなら『ふざけるな!』と怒り出しそうなものなのに、幸人様は何も言わずぎゅうと俺の服を握りしめてきた。

やはり、雷が怖いのだろう。

俺の弟がそうだった。
初め、隣で寝ていた弟は突然に暗闇の中鳴り響く音と光にものすごく怯えて、泣きながら俺にしがみついてきた。

当たり前だ。
なんせ守ってくれるはずの親がいないんだ。

守る者のいない暗闇の中突然の雷光は子供にとってとてつもない恐怖だろう。

『ごめんな、兄ちゃん気付かなくて。
怖かったな。大丈夫、一緒に寝てやるから。』

そういって抱きしめると弟は俺の腕の中で安心して眠りについた。



幸人様のご両親は小さいころから放任していたと咲人様から聞いた。となれば、例え大きな雷が鳴ったとしても子供の傍に行くような人間ではなかったろう。
親に甘えることを許されなかった幸人様は、俺の弟と同じく守ってくれるはずの親に放置され広い部屋の中で震えていたに違いない。

恐らく、小さいころは咲人様が俺のように幸人様を抱きしめながら眠っていたんじゃないだろうか。

今のように大きくなって、確執があって。
ここ最近でお互い歩み寄れたとはいえ、幸人様は今更咲人様に抱きしめてほしいなどと言えないだろう。

それならば、俺が。

一人怯える子供なんて見たくない。
どうか安心して眠ってほしい。

一人ではない、と、守ってくれる者がいるんだと幸人様に感じてほしい。


…なぜ?
俺が、幸人様を守りたい?


自分にしがみつく幸人様のぬくもりに、何故か胸がとくんと大きくなる。

「…幸人、さま」

名を呼び、俺を見つめる幸人様を俺もじっと見つめる。

この人は、本当にきれいだ。

「あ…」

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