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「悪い…」
ベッドに横たわり、腕で顔を覆い滝沢に声をかける。
「いや…、謝るのは俺の方だ。」
何が?
少し腕をずらして滝沢を見る。
滝沢は、ひどく泣きそうな顔をしていた。
「…幸人様がお前にこんなことばかりさせるのは、俺のせいだ。
すまない。」
「何言ってんの?なんで滝沢のせいなの」
言われる意味がさっぱり分からなくて聞き返すも、滝沢は困ったように眉を寄せるだけで答えない。
「…堂島。
以前、俺はお前に執事なら何があっても耐えろと言った。
だが、これはもうその域をはるかに超えている。
毎日情事の後始末や行為を観察させるなど、人間としての尊厳を損なう命令だ。
拒否しろ。富原さんだってわかってくれる。」
「…尊厳で生きていけるなら俺の弟は死ななかった」
「え?」
ぽつりと呟いた言葉は滝沢には聞こえなかったのか、聞き返されたが俺はもう何も言うつもりはなかった。
「大丈夫だよ。ありがとな、心配してくれて。」
ゆるく微笑むが、滝沢の顔から心配の色がなくなることはなかった。
その顔が何だかおかしくてくすくすと笑ってしまった。
「…何がおかしいんだ」
「いやあ、初めて会った時の滝沢って俺のこと超敵視してたじゃん?それが今では心配してくれるだなんてさ。
でも、俺がソファで寝ちまったらベッドに運んでくれたり、幸人様と殴り合いしてけがしたときも手当てしてくれたり、なんだかんだ優しくなったよね。」
俺の言葉に滝沢が真っ赤になってそっぽを向いた。
「…俺だって馬鹿じゃない。
お前のおかげで幸人様が変わったのは事実だったからな」
幸人様の名前が出て、少しずきりと胸が痛む。
幸人様、どうしてだろうな。
俺、この一か月であなたにだいぶ近づけたと思ったのに。
「堂島、大丈夫か?まだ吐きそうか?」
滝沢が俺の額にそっと手を当てる。
その冷たさが心地よい。
「ン…、大丈夫。ありがと…」
そう答えて目をつぶったその時、寝室の扉が勢いよく開けられた。
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