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「幸人様!」
屋敷につくと、富原さんが憔悴した顔で駆けよる。
時刻は6時。
学校を出たのが4時前だから、二時間も経っている。
あの後、俺と幸人様は土手を歩きながら土手に咲いている花や虫たちを見つけては手に取ったり眺めたりしていた。
途中で遊んでいる子供たちに混ぜてもらったり。
鬼ごっこで鬼になって真剣に子供たちを追いかける幸人様はちょっとおかしかった。
幸人様は今日の帰りに起こる出来事一つ一つに、
戸惑い、警戒し、安堵し、喜び。
まるで全てが初めてだというように二人夢中になって遊んだ。
どろどろになった制服を見てメイドがひい、と声を上げる。
富原さんがじろりと俺を睨んだ。
「どういうことかね?」
「すみません。
ちょっと寄り道してたら遅くなってしまいました」
悪びれもせずにそう言う俺を、富原さんはますます睨む。
「ならばなぜ一言電話をしてこないんですか。
私たちがどれほど心配したか…」
「富原」
俺を注意する富原さんを幸人様が遮る。
「明日からも迎えはこいつだけでいい。わかったな」
口元に笑いを浮かべながらそう言う幸人様に富原さんをはじめその場にいた皆が信じられないものでも見るかのように目を丸くして言葉を失った。
富原さんは一体何があったんだと俺と幸人様を何度も交互に見ていた。
その日の夕食でまた幸人様は咲人様につかまった。
幸人様はひどくうんざりした顔をしていたが、咲人様の隣に腰掛ける。
「幸人、今日は楽しかったかい?
どろんこになって帰るだなんて今迄なかったね」
「…うるせえ」
とても楽しそうに問いかける咲人様に、幸人様は昨日のよう怒るかと思いきや眉間にしわを寄せはしたものの否定はしなかった。
高田と黛がちらりとこちらを見る。
咲人様もちょっと目を見開いて俺をちらりと見ると、すぐに嬉しそうに目を細めた。
そのまま黙々と夕食を続ける。
幸人様が否定しなかったのは、昨日の咲人様とのやり取りで俺が自転車に乗っていかなかったからだろうか。
否定すると、また車で来ると思ったのかな。
今日の帰りに本当の事知ったから、心配しなくてもいいのに。
なんだか嬉しくなって口元に軽く笑みを浮かべた。
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