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「……帰ります」
葛城は、炎蒔の言葉を聞いて、唇を噛み締め玄関に向かった。
まとわりつく炎蒔をリビングで待つように言い、見送りに出る。
「なに?僕を嘲笑ってやろうって?」
「…ここに人を呼んだのは君が初めてだよ。本当の炎蒔を見せたのは、君が初めてだ。本当の炎蒔は、社長と俺しか知らない」
葛城が、目を見開く。
「ENJIに言い寄る人間はそれこそ星の数ほどだ。側にいる俺を見て、君みたいに『自分の方がふさわしい』って人も今までたくさんいたんだよ。でも、みんなENJIの冷たすぎる態度に諦めて離れていく。ENJIの時のあいつは、恐ろしいほど冷酷だからね。やっぱり、孤高の王子なんだって。
諦めずに引っ付いてきたのは君だけだったんだ。だから、君に敬意を表して俺は本当の炎蒔を見せた」
「…それでも引かない僕をENJIが選んだらどうすりつもりだったのさ?」
葛城が無表情で問いかける。
「そりゃもちろん、戦うさ」
きっぱりと言い切る。
「フェイクなENJIは、みんなのものだからいつでもあげる。でも、リアルの炎蒔に関しては絶対に譲らない。
…炎蒔が思う以上に、俺も炎蒔を愛しちゃってんだよね。」
炎蒔だけは、絶対に譲らない。俺が葛城になにを言われようが平然としてたのは、この確固たる自信があり覚悟があったからだ。
伊達に変態を受け入れたわけじゃないんだよ。
しばらく沈黙が続き、葛城がため息を一つはいた。
「…ENJIに辞められたらうちの会社も大損害を受けるからね。しっかり手綱握っててよ」
そう言うと、颯爽ときびすを返し去っていった。
「ありがとう」
振り返らない背中に投げかけた。
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