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それから数日、新は僕の前に二度と姿を現さないまま退学していた。正しくは、させられた。
両親から手紙が来て、新の家族が謝罪にきて、新と共に遠くへ引っ越していったと教えてくれた。
新は、引っ越し先で病院に入れられたらしい。
事件の後、記憶退行といって、新の頭は幼稚園児のころに逆戻りしてしまったそうだ。そしてたまに、『はじめは?』とぽつりと聞くらしい。
僕は二度と新に会うつもりはない。その方がいいだろう。僕に会ってしまったら、きっとまた新は狂ってしまう。
新があんな狂気に走ってしまったのは新1人の責任じゃない。周りにいた全ての人間の責任だと僕は思う。その中には、僕ももちろん入っている。
手紙を読んだ後、幼稚園のころを思い出した。あの頃から、新は僕に意地悪ばかりしていた。
…でも、僕が泣くと必ず『はじめ、ごめんね大好き』
って抱きついてきてたっけ。
いつから。いつから、狂ってしまったんだろう。
二人でよく遊んだ昔の事を思い出して、僕は泣いた。
空きになった僕の同室は、真也が入った。
あれから真也は常に僕の側にいて、いつも惜しげもなく好きだって気持ちをぶつけてくれる。
そんなある日、僕は体育館裏に呼び出しをされた。
相手は、真也。
何だろう。なにか、大事な話?もしかして別れ話とか…
不安に思いながら指定された時間に行くと、真也はもう先に来ていた。僕の姿を見て、にこりと笑う。
「ごめんな、急にこんなとこに呼び出して。」
僕は俯きながら緩く首を振る。
心臓がばくばくしてる。事件の時に真也の本気を知ったとはいえ、僕はまだ完全に今まで新から植え付けられた劣等感から抜け出たわけじゃない。どうしても、悪いことばかりを想像してしまう。
真也は、一つ咳払いをすると、真剣な顔をして僕に向かい合った。
「改めて、仕切り直しがしたくて。
中田創くん。君が好きです。絶対大事にするから、俺とつき合ってください。これから先も、ずっと。」
頭を下げ、僕に手を差し出す真也に、僕は目を見開いた。
「…こちらこそ、よろしくお願いします…!」
僕が泣きながら手を取ると、真也はそのまま僕を引き寄せ、抱きしめてキスをした。
今度こそ、本当に手に入れた。
僕を覆う影を取り払ってくれた、僕だけの光。
end
→あとがき
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