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6

「ごめんなさい…」


僕は、あの後店を飛び出した。
どうやって家に帰ったのか覚えていない。
店を飛び出したとき、桜庭さんが何か言っていたような気がするけど、僕には聞く余裕もなかった。


桜庭さんを、怒らせた。


あんな顔した桜庭さん、見たことない。

『似合ってない』

桜庭さんの言葉が、頭の中にリピートされる。
僕みたいな平凡が、髪を明るくしちゃいけなかったんだ。少しでも、桜庭さんに近づきたかったんだけど。かっこいい桜庭さんから見れば、ひどく滑稽に映ったのだろう。
高木さんは大丈夫だったんだろうか。僕のせいで怒られたりしてないだろうか。
気にはなったけど、今更どうしようもない。

髪の色は市販の薬でその日のうちに黒くした。
カットモデルには、もういかない。
桜庭さんに、合わせる顔がない。


あんなすてきな人に、一年も髪をいじってもらえた。
優しく触れてもらえた。その思い出を胸にしまい、僕は桜庭さんへの恋をあきらめよう。
僕は延々と泣き続けた。


それから3ヶ月、僕はレクサスには近寄りもしなかった。
それでも、毎日桜庭さんの顔を思い出す。

「あきらめようって、決めたはずなのにな」

恋心は、褪せるどころかより一層色濃く心に染みている。



会いたい。会えない。



俯きながら、とぼとぼと帰路を歩く。
ふと、家の前に誰か立っているのに気がついた。


立ち止まって息をのむ。あの圧倒的な存在感。



会いたくてたまらない、桜庭さんその人がいた。

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