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5

「ず、ずるいぞ!俺も撫でてくれよ!」

鈴野ががたんと席を立つ。

「食事中に席を立つなって言ったとこだろうがああああ!!!!
言われたこと守ってから文句言えやコラアアア!!」
「ぎゃーっ、ご、ごめんなさいい!」


慌てて座り、行儀良くオムライスを食べ始める鈴野。
双子補佐とチャラ男会計は、自分たちは何か悪いところはないかと挙動不審だ。


一匹狼だけが、花形に反抗した。


「チッ、なんなんだよてめえはさっきからよ!母親にでもなったつもりか!
あーそうだ、俺は野菜が大っきらいでな。何を言われようが絶対食わねえぜ」

はん、と鼻で笑い野菜サラダを床に落とす。花形を見た一匹狼は、途端にその顔から笑いを消した。


そこには、氷のような目で自分を見る花形がいた。


「母親ですか?ええ、ええ、あんたらみたいな体を大事にしない息子がいたらそらもう大変ですよ。
別に何も言いませんよ、あんたが野菜不足で将来痛風になろうがぶくぶく太った脂ぎった親父になろうが俺は困りませんからね。
ただね、野菜ってのは体をきれいにしたり丈夫にしたり、栄養がたくさんあるんです。そんな野菜を、くその役にも立たないくだらない反抗心で床にぶちまけるなんて所業が許せない。
何様のつもりだ、食べ物を粗末にするな。食べ物を粗末にするってことは命を粗末にするってことだ、ああ、そんないらない命ならいっそ俺が今貴様がぶちまけた野菜のようにぶちまけてやろうか」


片手にフォークを持ち、一匹狼を見つめながら恐ろしい声でつぶやく。
―――本気だ。本気の殺る気だ。
一匹狼は、不良なので喧嘩はしょっちゅうしている。『殺してやる』と殴り合ったことも多々あるが、所詮はただの喧嘩。こんな身も凍る殺気は初めてだった。
一匹狼は、鬼を見た。

「わ、わかった!おれが悪かった!」

だからフォークを離してくれ!と頼む。

「それなら先に今貴様が落とした野菜を全部拾えやああ!」


慌てて落としたサラダを拾う。
すると、花形がそれをお盆に乗せ、ふきんで一匹狼の手をキレイに拭いた。

「あ…」

一匹狼が何か言おうとすると、にこりと微笑みかけた。
「はい、おしまい。よくできました」
拭き終わった手を、優しく一撫ですると、背を向ける。
一匹狼は、拭いてもらった手をそっと撫でた。


「双子補佐様、会計様」


挙動不審だった三人が、びくりとしておどおどと目を向ける。


「お三方は、いつも食べ方が綺麗ですね。食前後の挨拶もきちんとしてるので、見ていてとても気持ちがいいです。
ただ、双子さま、お二人は自分の苦手な物があると、見分けがつかないのをいいことにこっそり席を入れ替わるでしょう。だめですよ、先ほど副会長さまにも言いましたが、苦手な物も一口は食べるようにしましょうね。
会計様は、なんにでも塩をかけすぎです。塩分は取りすぎると良くないので、少しずつ減らしていきましょうね。」



にこりと微笑んで、三人の頭を撫でていく。
三人は、何だか嬉しかった。


「ど、どうだ!全部食べたぞ、平凡!」

先ほどから静かに食事をしていた会長が、きれいに空になったお盆を花形に見ろ!と持ち上げて突き出した。

「…食べ終わったら先に言うことがあるでしょう…?」
「!ごごごちそうさまでした!」

花形に睨まれ、慌てて手を合わして頭を下げる。
「はい、よく食べました。」

花形は、にこりと微笑んで会長の頭を撫でた。

「ごっ、ごちそうさまでした!」

それを見ていた鈴野が、慌てて自分も食後の挨拶をする。

「うん、宝もちゃんと座ってキレイに食べたね。やればできるじゃないか、えらいえらい。
あ、ほら。口にまだケチャップがついてるよ。食べ終わったらナフキンできちんと口元を拭こうね。」

頭を撫で、口を拭いてやる。
鈴野は、真っ赤になってきらきらとした目で花形を見た。

「わ、私も人参全部食べましたよ!」
「じゅーす、のん、だ」
「「ごちそうさまでしたしたよー!」」
「塩かけないで食べたよ〜」
「に、20回ずつ噛んだから!」
「あ、新しくサラダ取って食べたぜ」

「みんなえらいね。あ、食後すぐは動いちゃだめですよ。」



――――お母さんだ。おかあさんがいるよ。



先ほどこっぴどく怒られた信者たちは、みな花形の言うとおりに態度を改め、花形を見つめる。



そのまなざしは、まさに悪いことをした後反省をしておかあさんにほめてもらおう、と期待する子供たちのものであった。

厳しくしかりつけ、反省すると優しく褒める。
まさに、おかあさまと呼ぶにふさわしい花形纏。

食堂にいた全ての者が、花形纏に割烹着姿の母を見た。

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