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そういえば今まで良平の家族には会ったことがなかった。
良平を酷く抱いた日も、『誰もいないから』と良平の部屋でことに及んだ。
うちも不在が多いから大して気にはしていなかった。
だが言われてみればおかしな点はいくつもあった。
良平。良平。お前はその小さな体でどれだけの苦しみを抱えてきた?
哲平の話が真実なら。いや、真実であってほしい。俺は君に跪いて愛を乞おう。
俺は走りながら泣いた。良平が愛しくて泣いた。自分の愚かさ、未熟さに悔しくて泣いた。
良平の家につくと、良平の部屋にだけ明かりがついていた。
他に人のいる気配はない。
排水管を伝い良平の部屋のベランダへと上がる。不審者で結構だ。
いた。
良平は、机に向かい本を読んでいる。ガラスをノックすると、こちらを見て一瞬目を見開いていつもの無表情に戻った。
「…なにしてんの。通報されるとか勘弁してほしいんだけど」
窓を開け、中に入れてくれた。
良平がこちらを振り返ったそのとき。
俺は、良平を思い切り抱きしめた。
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