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6

一体なんだってんだ。あいつら三人共、何を考えてんだ。今まで俺と小暮の仲を見てきたじゃねえか。どうして今さらそれが間違いだなんていうんだ。

あいつらから離れて一人生徒会室に帰ってきた俺は、乱暴に椅子を引いて腰を下ろした。ずきずきと痛む頭を片手で抑える。

最近頭痛が一段とひどい。大事な恋人を傍に置いて、幸せな日々を過ごしているはずなのになぜか心が晴れない。

いや、晴れないどころかますます黒く沈んでいくようだ。

原因は、きっとあいつに違いない。上村が、『こぐちゃん』とか呼んでいたあいつ。


最近、小暮といると必ずと言っていいほどあいつと遭遇する。そんなに俺と小暮の仲を裂こうとしたいのか。そんなに小暮が欲しいのか。あいつの顔を見るだけで言いようのない苛立ちが胸に渦巻く。何か言ってこようものならすぐさま反論してやろうと身構えると、いつも小暮が俺に甘えてくる。見せつけてやるために小暮の肩を抱いても、あいつは顔色一つ変えずにその場からいなくなる。

気持ちわりい。一体、何考えてやがんだ。

無表情に通り過ぎるあいつを思わず引き止めて怒鳴り散らしたくなる。

「好きじゃないのかよ。何とも思わないのか…」


俺が、他のやつといちゃついてるってのに。


「…?」

今、何を考えた?…あいつが小暮に何もしないのは、いいことじゃねえか。俺たちの前に現れてなにも行動を起こさないことにどうしてこんなにも焦ってるんだ。

…焦ってる?俺が?

「う…」

あいつのことを考えると、ズキズキと痛みがひどくなる。こんな時は、小暮に抱きしめてもらいたい。退院して来た日。頭痛を押さえて蹲る俺の手を、優しく握りしめてくれた時のように。眠る時に、その広い胸板で俺を包み込んでくれる時のように。

「広い…胸板…?」

どうしてだろうか。小暮は、きゃしゃで小柄で、胸板なんか俺の半分くらいしかないんじゃないかってほどに薄いのに。俺は、違う温もりを知っている。全て包み込んでくれる、温かい腕を知っている。

小暮。小暮。



『綾小路』



柔らかな、優しい声が耳に響く。そうだ。小暮は、いつも、


「綾小路君」

ふと聞こえた声に顔を上げると、先ほど送ったはずの小暮が生徒会室の扉を開けてこちらを覗いていた。

「ごめんね。何だか、寂しくなっちゃって…」

おず、と控えめに部屋の中に入ってくる小暮に顔が緩む。だが、頭のどこかで警鐘がなった。


ちがう、と何かが叫ぶ。


「どうしたの?」
「…いや、なんでもないよ。おいで」

両手を広げると、ぱあっと顔を輝かせて俺の腕に飛び込んでくる。すっぽりハマるその感触に、また違和感。

「どうしたの?綾小路君。元気ない?」
「いや…」

心配そうに見上げてくる小暮の目が揺れる。いつもなら、そうだ。その目で見つめられるとすぐに俺は欲情しちまって、小暮を押し倒して…

心配そうに俺を見つめる小暮の頬に手を置いてじっと見つめる。

「…なあ、小暮。俺とお前が付き合ったきっかけって、なんだったっけ…」
「え…」

ふと。
この小暮との出会いは、なんだったのだろうかと思った。

「あ、あの、あの…」

しどろもどろと口ごもる小暮に、ますます頭痛がひどくなる。何が起きてるんだ。一体、俺はどうしたって言うんだ。小暮を、疑っているのか…?

わからない、わからない、わからない。

ぎゅう、と抱きしめて、そう言えばとふと思いだした。
退院してから、俺は一度も小暮を抱いていないし口づけてもいない。頬にキスすることはあっても、いつもしていたはずの甘い恋人同士の営みをしたことがないのだ。
どうしてだ。以前の俺は、小暮がはにかんだりするだけで押し倒して小暮を困らせていたはずだ。退院してから、もう2週間以上にはなる。それなのに、どうして俺は小暮を抱きたいと思わないんだ。

「綾小路くん…?」

そうだ。抱いてしまえば。

こんなにも、不安な思いをしないで済むかもしれない。

「小暮」

そっと、ソファに小暮を押し倒した時



「きっかけは、手紙だ」



扉の方から、低めの声が耳に届いた。

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