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4

「説明をしてもらいましょうか」

生徒会室には、綾小路以外の役員が二人の小暮の前に腕を組んで立っていた。先ほどの騒動から、綾小路には担任に退院してきたことを伝えてこいと山本が追いだしたのだ。その間に、テツヤに病院での診察結果を聞くからと言われ綾小路は疑いもせずにテツヤを置いて生徒会室を後にした。

残されたテツヤは、ゆっくりと口を開く。

「あの、病室に行くと、すでに会長は僕の事を自分の恋人の小暮だと言ってて…」
「否定すればよかったでしょう。どうしてそのままにしておくんですか。あなただって知らないわけじゃないでしょう!」

思わず口調がきつくなった山本を、草壁がなだめようとするも山本は不機嫌を露わに苛々と眼鏡のブリッジを上げた。

「…あの、僕も、困惑してるんです。いきなり、会長から大事な恋人だって言われて…。…でも、僕、考えたんです。あの、今、会長は平気なふりをしてますけど、記憶がない事で困惑してると思うんです。そんな会長に、ほんとに恋人は僕じゃないなんて言うと、ますます混乱するんじゃないでしょうか。…さっきも、急に頭を押さえてましたし。でも、その…、この人が、小暮さんが、僕を会長の恋人で間違いないって言ったら、収まったでしょう?だから、しばらく、本当の事は告げないで、このままにしておいた方が会長の為じゃないですか…?」

おずおずと、苦渋の決断だとでもいうように口にしたテツヤの言葉に三人は信じられない、という目を向けた。
この男は、何を言ってるんだろうか。何が原因かはわからないが、綾小路は完全に同じ名前の小暮を勘違いして自分の恋人と信じて疑わない。それを訂正せずに、自分を恋人だと思わせておけと。それが綾小路の為だと言うのだ。

「何言ってるの!?そんなのが会長の為だなんて、そんなことあるわけないじゃない!」
「そうだよ!君、何を考えて…!ちゃんと間違いを正してやることの方が会長の為に決まってるじゃん!」
「でも、会長は小暮さんを嫌ってますよ。僕を狙ってると思ってるんです。そんな自分が嫌悪してる人間を本当は恋人だなんて無理やり記憶を思い出させるような真似をして、会長が壊れてしまったらどうするんですか?」

あくまで仕方ないのだと、綾小路の事を一番に考えた方法だと言うテツヤに、役員の三人が怒りに震える。特に上村は今にも飛び掛かってしまいそうな空気だった。

「…そうだな。」

そんな緊張の走る空気を破ったのは、小暮本人だった。吐き出された一言に、皆が一斉に目を向ける。小暮は、ソファに座って膝の上で手を組んで一点を見つめたまま動かない。

「こぐちゃん!なにを…」
「上村。…いいんだ。確かに、小暮君の言うとおりだ。」

あの時、混乱した記憶に頭を押さえた綾小路を見て小暮はすう、と心臓が冷えた。それほど悲痛に、今にも壊れてしまうんじゃないかというほどにあの時の綾小路は脆く見えた。
階段下で、意識を失って倒れたままの綾小路を思いだしてガタガタと体が震えた。このまま、いなくなってしまうんじゃないのか。綾小路が、消えてしまうんじゃないのか。

『こ〜ぐれ〜』

太陽のような温かい笑顔を浮かべながら自分の名を呼ぶ綾小路を思い出す。あの笑顔は、二度と自分の向けられることはない。それでも、


二度とその笑顔が見られなくなるよりは。綾小路が消えてしまうよりは、全然いい。


「小暮君…。綾小路を…、桂を、頼む。」

愛してるからこそ、幸せでいて欲しい。

深々とテツヤに向かって頭を下げる小暮に、テツヤは歪な笑みを浮かべていた。

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