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3

小暮を抱きしめていると、腕の中の小暮が恥ずかしそうに身を捩る。腕の中にすっぽりハマってるので大した抵抗にならない。そんな恥ずかしがる小暮も可愛い。

「大丈夫か?お前が階段から落ちてくるのを見た時には心臓が止まるかと思った…。無事でよかった…。」
「…あ、うん…。心配かけて、ごめんなさい…。」

真っ赤になって俯く小暮の頬に手を当てて、その柔らかな頬にキスをする。ふと視線を感じて顔を上げると、扉の所で先ほど立ちすくんでいた男がまだそこにいてじっとこちらを見ていた。

「…なんだ、お前。人の恋人との甘い情事がそんなに気になるのかよ。」
「…っ!、あ、やの、こうじ…っ」

ぎろ、と睨んで威嚇してやればそいつは真っ青な顔をして俺の名を呼んだ。名を呼んだあとに泣きそうに顔を歪めたそいつを見て、その表情に、その呼び声に何だかズキンと胸が痛んだ気がするが、気のせいだろう。

…というか、こいつは誰なんだ。なんで俺の病室に小暮と来たんだ。いや、小暮の方が先に来たからもしかしてあれか。小暮を追いかけてきた…?

確か、俺が階段から落ちたのは愛しの小暮が誰かに嫌がらせをされてるっていうのを確認しに行くために小暮のクラスに向かう途中だったはずだ。
つまり、そういうことなんじゃないのか。

こいつは、小暮を狙ってんじゃないのか。

その泣きそうな顔と呼び声は、俺という恋人が小暮にいることと目の前で狙ってる小暮にキスをされたからに違いない。

じっと、青い顔で立ちすくむそいつを観察する。

背は俺より幾分か高い。体を鍛えてでもいるのだろうか、ガタイもかなりいい。そして、いわゆる強面に分類されるであろう顔立ち。見た目からして不良だとしか言いようがない。

こんな奴に、大事な小暮に手を出させてたまるか。

「いいか、お前に言っておいてやる。この小暮は、俺の大事な恋人だ。手え出したら許さねえぜ。いつまでも物欲しそうに見てんじゃねえよ、とっとと出て行け!」

きつく睨みつけながら言い放つと、そいつはまるで絶望したような顔をしてふらりと病室から出て行った。



その後ろ姿を、なぜか引き止めたくなったような気がしたが、腕の中の小暮にぎゅっとしがみつかれてもう先ほど出て行った男の事は頭から消えていた。


小暮と共に学園に戻ると、役員の奴らが仁王立ちをして俺を出迎えた。なんだ、何怒ってやがる。いつもと違う空気に、怪訝な顔をして役員たちの前に小暮の肩を抱きながら歩み出ると、山本の目が一際冷やかに光った。

「…ご無事で何よりです。ところで、お伺いしても?」
「あ、ああ…、心配かけてすまねえ。で、なんだ…?」

山本は俺におざなりな挨拶をすると、冷ややかな目を隣りに立つ小暮に向けた。びくりと怯えて体を竦ませた小暮を、大丈夫だと抱きしめてやると山本だけじゃなく上村や草壁からも今まで味わったことのない空気が発せられる。

「な、なんだよ。なんでお前ら…」
「それはあなたが一番よくご存じのはずですが?…どうして、その子を大事に抱きしめているのですかね?」
「は?」

何を言ってるんだ、山本は。俺の恋人を忘れたってのか?

「…こいつは、俺の恋人だ。俺がこの世で一番大事にしてるやつだって、お前らだって知ってるはずだろう。どうしたってんだ?」

俺の答えに、山本だけじゃなく上村や草壁まで驚いて目を丸くしている。一体どうしたってんだ。怪訝に眉を寄せて小暮の方を見ると、小暮は何だか複雑な表情をしていた。何の表情だろうかと不思議に思ったが、こいつらにまるで知らない奴のように扱われたからなんじゃないかと三人に対していらつきを感じる。

「会長、本気で言ってるんですか?」
「会長、頭打ってどっかおかしくなっちゃった?そいつ、こぐちゃんじゃないよ。転校生だよ。」
「は?何言ってんだ。こいつが俺の小暮じゃない?転校生?おかしなことを言うな。小暮はずっとこの学園にいたじゃないか、なあ、小暮?」

上村と草壁こそ、何を訳の分からないことを。こいつが俺の小暮じゃないだって?そんなわけあるか。あの、夜の公園で幾人もの不良どもを舞うかのごとく倒していた。月明かりの下、小柄な体がひらひらと舞っていた。一瞬で見惚れたんだ。こんなにも小さいやつが、あんなにきれいな戦い方をするなんてと。

「あの時見たままの姿だ。小柄で小さい、可愛らしい姿のままで俺の前に現れてくれた。ずっとずっと、求めてやまなかった存在だ」
「…その子は、誰ですか?」

怪訝な顔のまま俺の小暮に対する思いを聞いていた山本が、問いかける。


「だから、小暮テツオだろう。おれの大事な恋人だ。」


俺の答えに三人共顔を見合わせて、信じられないとでもいうような顔をしていた。

「何言ってんの会長!こぐちゃんはそっちじゃないでしょ!」

俺の答えに、皆が一瞬言葉を失いしんとした生徒会室に再び喧騒を投げ入れたのは上村だった。言ってる意味が分からない。何がそっちじゃないってんだ。
怪訝な顔をして首を傾げる俺の前に、上村が隣の仮眠室に駆け込んだかと思うと誰かを引っ張って出てくる。上村に手を引かれ現れたそいつの顔を見て、俺は先ほどとは違う意味で怪訝な顔をした。

だって、そいつは俺が先ほど病室から追い出したやつだったから。

「会長のこぐちゃんはこっち!しっかりしろよ!」

そのままぐん、と投げ出すかのようにそいつを俺の前に押し出すと、上村は今まで聞いたことがないような口調で俺に怒鳴った。それにむっとした俺は目の前に差し出されたそいつを冷ややかに睨みつけてやった。俺の睨みにびくりと体を竦ませ、情けなく眉を下げて顔を逸らすそいつに何故か苛々する。

「しっかりするのはお前の方だ。こいつがなんだって?知らねえな。俺の小暮は…」

この世でただ一人、と言葉を続けようとして一瞬言葉に詰まる。『知らない』と言った俺を絶望した眼差しで見つめるコイツの目に、一瞬何かが頭をよぎったからだ。

ずきん、ずきん、と脈打つように頭が痛くなってくる。

「おれの…、俺の小暮は…」

優しくて、泣き虫で、誰よりも繊細で…、はにかんだ笑顔が、とてもかわいくて。

わからない、わからない。

目の前で泣きそうな顔をする厳つい男と、隣にいる小暮がごちゃごちゃに入り混じる。どうしてだ。痛みが激しくなる頭を手で抑え、痛みをこらえるために顔をしかめるとふと頭をおさえていた手に温もりを感じた。

「…綾小路、しっかりしろ。大丈夫だ。お前の小暮は…隣にいる」

閉じていた目を開けると、泣きそうになって俺の顔を覗き込む小暮。頭を押さえている手に添えられているのが、隣にいる小暮の手だと気付いてホッとすると同時になぜか心のどこかで違和感を感じた。

「あ、綾小路、くん…」

泣きそうになって俺に心配そうな声をかける小暮に、安心できるようににこりと微笑みかけてやる。ほっとしたような顔をしてそっと俺に寄り添う小暮を抱きしめてやると、目の前の男もその口元に柔らかな笑みを浮かべた。

「…よかったな、綾小路。無事で何よりだ…。」



その微笑みが、悲しそうに、儚げに見えたのだなんて気のせいだ。

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