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伊集院の告白を聞いた原口は激しい後悔と自己嫌悪に胸が潰されそうだった。一体幾度、この愛しい恋人を苦しめれば自分は気がすむのだろうか。
ほんの少しの言葉足らずと、すれ違いがこんなにも伊集院を苦しめてしまった。いつだって、自分の事に対して全力でぶつかってその体中で自分を好きだと表してくれる恋人を、追い詰めてしまった。
それも、最悪な形で。
抱きしめる伊集院の体が、がたがたと震えてとどまることなく嗚咽が漏れる。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
記憶をなくして、ひどく冷たく当たり原口を傷つけてしまったこと。自分のせいで、余計にひどい目に合わせてしまったこと。
何度も何度も、原口への謝罪を繰り返す。
伊集院は、自分のために、それを防ぐために記憶をなくしたはずだったのにそのせいで原口への嫌がらせがエスカレートしたことを知って余計に傷ついてしまった。同時に、記憶をなくした伊集院が原口に対して取っていた行動をも思いだして、腕の中でこんなにも泣いている。
「崇…」
泣き続ける伊集院の顔をあげさせ、じっと見つめるとぎゅっと目を閉じいやいやと頭を振った。
「ごめ…っ、ごめ、なさ…」
「崇、大丈夫。大丈夫だから。」
逃げようとする伊集院を、ぐっと引き寄せる。
いつだって自信に溢れ、圧倒的存在感を持つ伊集院が、小さく消えてしまいそうだ。
「崇…、俺の方こそ、ごめん。ごめんな。どうでもいいんじゃないんだ。取り巻きの奴らにだって、ほんとは嫉妬してる。でもな、好きな人がとられて悔しいきもちもわかるから。それにな、」
原口が話し出すと、固まっていた体がゆっくりと緩んでいく。恐る恐る目を開けて原口を見ると、いつも向けてくれていたあの優しいまなざし。
「誰に何を言われても、お前を絶対に離さない自信があったから。何をされたって、何を言われたって離れない自信があったから。…お前に言わなかったのは、俺の小さなプライド。惚れてるやつに、カッコつけたかったんだよ。でも…結局お前を傷つけるだけだった。ダメだな、俺…。お前を泣かせることしかできないのかなって、自分が情けなくて悔しいよ。」
「そ、そんなこと…っ」
「でもな、崇」
原口の言葉を否定しようとした伊集院の唇に、原口がそっと人差し指を当てる。その仕草が妙にカッコよく写り、伊集院は思わず真っ赤になってしまった。
「泣かせても、傷つけても、それでも、お前を離してやれない。ごめんな。」
まっすぐに、心をつかみ取られるかのように。
「しの…っ、忍…!」
傷つけたのは、自分なのに。愛してるはずの原口を忘れて、ひどい言葉を投げつけて、離れて辛い思いをさせたのは自分なのに。
「お前に忘れられた時も、お前は俺なんかよりも違う誰かに選んでもらった方が幸せなんだって、勝手に思ってた。でも、違うよな。そんなの、ただの逃げだ。今度は、間違えないよ。忘れられたら、もう一度好きになってもらえるようにする。そんで、周りの奴らに何も言わせないように、お前をこの世で一番幸せにさせてやれるのは俺なんだって、思い知らせてやるよ。」
原口の言葉に、伊集院は先ほどの比ではないくらいに涙をこぼし、子供の様に泣きじゃくった。
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