気を失っていた時間は長かったのか短かったのか、分からない。
いつのまにか目を覚ましていたし、足も、しっかりと地に着いている。
セフィロスは私達に背を向け、剣を振り下ろすと何もなかったそこに謎の空間が現れ、一言残して、去っていく。

「早く来い、クラウド」

セフィロスに呼び寄せられるように前へと歩みを進めるクラウド、エアリスが必死に、ここ、分かれ道だから、とクラウドの腕を掴んで制止する、そして、クラウドの前に進んで、立ち止まった。
エアリスが右手をかざすと地面はイルミネーションのような輝きを放ち、一瞬で消え去り、真っ黒だった空間へ白が入り込んでくる。

「運命の、分かれ道」
「どうして止める」

クラウドの言葉にエアリスは軽く首を振り、答えた。

「どうして、かな」
「向こうには何があるの?」
「自由」

ティファの質問に今度は前を見て返したエアリス、目には、いつもより少し迷いの色が浮かんでいるように見えた。

「自由…でも自由は怖いよね。まるで、空みたい。星の悲鳴、聞いたよね?かつて、この星に生きた人達の声、星を巡る、命の叫び」
「セフィロスが原因なの?」
「うん、あの人は悲鳴なんて気にしない。なんでもないけど、かけがえのない日々、喜びや幸せ、なんて、きっと気にしない。大切な人なくしても、泣いたり、叫んだりしない。セフィロスが大事なのは星と自分。守るためなら、なんでもする。そんなの、間違ってると思う」

私の何気ない質問に、エアリスは拳を少し強く握りながら、そう言った。

「星の本当の敵は、セフィロス。だから止めたい。それを皆に手伝って欲しかった。この皆が一緒なら、できる。でも…この壁は、運命の壁。入ったら、越えたら、みんなも変わってしまう。だから、ごめんね。引き止めちゃった」

エアリスが話を終えた、その瞬間、私達の鼓膜を悲鳴のような声が襲う、思わず耳を塞いでしまうような、聞いていられないような、そんな声。
エアリスは、この運命の壁を越えたら、私達が変わってしまうかもしれない、そう言った。
少し怖かった、何かが変わってしまったら…でも、大好きな人と、皆と、これからも一緒に笑ったりできるようになるには、選択肢は一つしか残されていないんだと思う、だったら、もう、

「迷う必要はない、セフィロスを倒そう」

悲鳴は、もう聞きたくない。最後にそう付け足したクラウドに、私は、頷いた。
**
「何だよ、別に普通じゃねぇか」

バレットの言葉通り、壁を越えた先には変わらない光景があって…けれど、見て、と言うエアリスの言葉で空を見上げると大量のフィーラーと不穏な紫色の光。
大量のフィーラー達は竜巻のように、私達へと迫り来る。
一心不乱に逃げた私達の目の前にも、同じそれがあって、どうしようかと迷っている間に、空中へと打ち上げられた。
**
ここには、重力が存在しないのか。
恐る恐る開けた目と、ふわりと浮いている自分の体、そして、遥か下に見える、ミッドガル、同じように浮いている、コンクリートのガレキや、破壊された橋や道路の残骸。
俺を追い越していくフィーラーは紫の光の元へと集まり、とてつもなく大きな、形容しがたい何かに形を変えていく。
浮いているガレキを足場に道路へと降り立ち、崩壊していく道路を走り抜ける、と、バレットとティファと合流し、目の前に現れた、緑、黄、赤と色を持った敵と対峙する。
これらも、俺達を見下ろしている大きい物体も、きっとフィーラーなのだろう。
時折、場所を移動しながら戦い、休む暇もなく剣を振り続けながら考える、名前は無事か、と。

「みんな!」

エアリスの声に振りかえると、レッドも一緒にここまで来たようだ。
でも、名前が、いない。

「皆、名前は見てないか」

全員が少し下を向き、何も言わない姿に、募る不安。
きっと大丈夫だろうと思っていても、やはり傍にいない限り落ち着かない。
すると、そびえ立つフィーラーから放たれる、光。
俺達を取り巻いたと思うと、頭の中に、流れる映像、大自然を掛け抜ける、レッド。
目を覚ますと、バツが悪そうに俺達から顔を背けたレッドは、我々が忘れようとしている風景だ、と、そう言った。

「くっ」

大きなフィーラーの腕が俺達の足元へと振り下ろされ、足場の道路が分断される。
ティファとエアリスと離れてしまったようだ。
どうやら、あの巨大なフィーラーが本体、だが、まずは、こいつらから倒す。
赤い色を持ったフィーラーへと、俺は走り出した。
**
無事合流できた俺達は、二手に分かれ、本体のフィーラーと三体のフィーラーを同時に叩くことで効果的にダメージを与えることができた。
途中三体が集結して獣姿になった時は苦戦もしたが、倒すことができたようだ。
それにより、巨大なフィーラーも姿を消した。
だが時々、いつものように頭が痛む。
これは俺が忘れたい風景なのだろうか、だが、はっきりと見えない。
名前は、いつまでたっても姿を現さない、無事ならまだいいが、早く姿を見て安心したい。
そう、思った時だった。
俺達が立っていた場所は、とても浅い水辺に変わり、周りは霧がかかっているように白い。

「早く来い、クラウド」

その空間の中で聞こえた、セフィロスの声。
どうなっているんだ、とエアリスの方を向いても、分からないのか、軽く首を横に振った。
すると、辺りは一変し、赤くて熱い隕石が落ちてきたような光景と、浮かぶ紫の光、

「セフィロス」

セフィロスが右腕を上げると、その腕と繋がっているかのように宙へと浮かぶ、建物達。
間一髪のところで交わし、目の前へ飛んでくる列車や瓦礫を、ひたすらに叩き斬って、着地する。
足場は、しっかりとしていながらも周りには様々な建物が浮遊し続けている。
これはセフィロスが作りだした空間なのか?
いつの間にか、ここに居るのは、俺一人だった。

「運命に逆らうな、クラウド」

一歩横にずれたセフィロスの後ろから、見えたのは、

「…名前?」

間違えるはずない、あれは名前だ。
無事を確認できたことに安心したが、俺の呼び掛けに何も答えない。
目は虚ろで、生気を感じられない。

「名前に何をした」
「私にとって、邪魔な存在。だが今は少し利用させてもらおう」

利用だと?頭に血が上ったが、今は名前が最優先だ、傍へ向かおうとすると、俺の横を弾丸がすり抜けていった。
名前の手の中にあるスナイパーライフルの銃口からは薄らと煙が見える。
俺に向けて、引き金を引いた、名前が。
何が起こったのか分からないでいる俺を見て、セフィロスが喉を鳴らして笑っている。

「気分はどうだ?」
「ただで済むと思うな」
「名前と言ったか…関わると、お前は正気で、いられなくなるようだ」

きっと、名前はセフィロスに操られているだけだ。
この戦いが終わればきっと、いつもみたいに冗談を言って俺に笑いかけてくれる、そう信じてセフィロスに攻撃をしかけるも、名前が俺に向かって銃を撃ち込み、避けるのに精一杯。
名前に攻撃する訳にもいかず、防戦一方が続く。
吹き飛ばされて体勢を立て直そうとしていると、真上から瓦礫が落ちて来る、まずい、思った瞬間、瓦礫が吹き飛ばされた。
エアリスが、そこには立っていた。

「操られてるん、だね」
「…あぁ」
「大丈夫。名前は、セフィロスに負けたりなんか、しない」
「俺が一番分かってる」
「わ、自慢?」

ティファ達も続々と合流したが、セフィロスの周りを離れない名前に苦闘する。
度々、俺達は名前へと呼びかけるが、やはり反応はなかった。

「やれ」

セフィロスの声の後に、銃声と、感じる鈍い痛み。
名前の撃った銃の弾が、俺の腕を掠めた、ゆっくりと血が流れていく。

「…ぁ」

喉から絞り出したような消え入りそうな声が聞こえる。
間違いない、名前の声だ。

「名前、泣いてるの?」

エアリスの一言で、名前に目をやると、光を失った目から、確かに一筋涙が流れている、意識が、あるのか?
今すぐに、駆け寄って抱き締めて、俺は大丈夫だ、とそう言ってやりたい。
名前のことだ、きっと、酷く傷ついてしまっていることだろう。

「名前?私だよ、エアリスだよ、大丈夫だよ、私、分かるから。だからごめんね、もうちょっとだけ頑張って」

名前は下を向いたまま、動こうとはしなかった。
案外、利用価値がなかったな、もっと取り込みやすいと思っていたが、とセフィロスの呟きが聞こえて、俺は一瞬でセフィロスへ詰め寄り衝動的に、持っている一杯の力を使って、剣を振り下ろした。
すると、広がる、包みこまれる、光。
**
「気をつけろ、そこから先はまだ存在していない…我々の星は、あれの一部になるらしい…俺は、消えたくない…お前を消したくはない…ここは、世界の先端だ。お前の力が必要だ、クラウド。共に運命に抗ってみないか?」

俺は、その手をとらなかった。
それは、確かに覚えている。
そして、理解できない言葉をかけられたことも。

「終末の7秒前…だが、まだ間に合う。未来はお前次第だ。クラウド…」
**
温かい、体温を感じて、目を開ける、眩しくて、白しか見えない。

「名前…!大丈夫か、俺が分かるか、どこか変なところはないか」

次々と質問してくる誰かの声、その主をクラウドと認識した瞬間、私の頭の中には、自分がクラウドに向けて銃を撃っている光景が浮かんで、はっきり思い出す、あの時、私の中には、うっすらと自分の意識があった。

「ごめんなさい…」

そうとしか、言えなかった、私の意志じゃない、きっとクラウドも分かってくれていることだと思う、でも、私の意識は微かにあったのに、引き金を引いてしまっていた。
何があっても失いたくない存在を、自分の手で、消そうとした。

「わ、たし…私、クラウドを」
「言わなくていい」
「で、も、怪我は」
「掠り傷だ。名前が無事なら、なんでもいい」

クラウドの優しい笑顔に、涙が溢れてしまう。
声で気付いたのか、皆が私の元へと駆け寄って、安心した表情を浮かべてくれる。

「皆、ごめんなさい…」
「ほんと、無事で良かった。ねぇ、泣かせたのクラウド?」
「ち、がうよ」
「ならいいけど」

そう言って握った拳を解くティファ。

「名前は大丈夫って、私、信じてたから」
「エアリス…」
「ったく焦ったぜ!名前を攻撃する訳にもいかねぇしよ」
「決められた運命にも、たまには感謝していいかもしれないな」

エアリス、バレット、レッドXIII。
私を疑いもせず、優しい言葉をかけてくれる皆に、更に刺激される涙腺、でも、泣きたくない、傷つけてしまったのは、私なのに。

「…セフィロス、あいつがいる限り、俺は…」
「でも倒しただろ?」

その先の言葉を濁したクラウド、バレットは疑問を浮かべているみたいだったけれど、私も何となく分かっていた。
セフィロスは、きっとまだ、生きている。

「追いかけよう、大丈夫」
「私も、行く」
「追跡ならば鼻が必要だろう」
「あーっ!俺も行くぜ!あいつは星を壊すつもりなんだろ?星の敵はアバランチの敵だ」

続々と声を上げる皆の中で、何も言えない私がいた。
大切なものを守りたい、だから、一緒に行きたい、でも…これから、さっきと同じようなことが起きたら、どうする?
私が、また誰かを傷つけてしまったら?
…もし、命を奪ってしまったら?

「名前」

クラウドが私の名前を呼ぶ。
きっと、私の言葉を待っている。

「でも、また…」
「俺が名前にやられると思うか?」

クラウドはそう言って、ちょっと意地悪そうな顔を浮かべる。
こんな時でも思っちゃう、やっぱ、その顔好きだなぁ。

「自分が怖いの、自信がない」
「足りない部分は、俺が補えばいい」

だから、俺に足りない部分は名前が補ってくれ、なんて、クラウドは言う。
なんか、それプロポーズの言葉みたいじゃない?いつもの私なら、そう言えてたかもしれない、でも、嬉しくて、堪らなくて、頷いて、決意を口にした。

「私、みんなと過ごす日々を守りたい、だから、行きたい」

私達の言葉は違えど、きっと、向かうべき場所は同じ、だから一緒に。
頭に冷たさを感じて上を見上げると、ぽつぽつ、と降り注いで来る雨、まだ泣いてぼうっとした頭を冷やしてくれた。
ここが終わりなんかじゃない、きっと、今から始まる。

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