「幻覚だ、惑わされるな」

私達は、どこで戦っていたんだろう。
形容しがたい物体が紫の煙を帯びて消えていく。
もう一度目を開けた時には私達は社長室にいて、目の前で倒れ込む黒いローブを着た男、衣服が破れて晒された左の腕には49と数字が書いてある。
男を抱き上げたセフィロスは気付いた時には窓の向こうで、風に乗るように浮遊していった。

「うおっ!」

勢いよく起き上がったバレット。
自分でも驚いているのか、刺されたはずのお腹をさすり、ああ、と呟く。

「運命は死よりも強いか」

レッドXIIIの言葉で、フィーラーの存在を改めて実感する。
決められた運命の中にはバレットの死はない、きっと、そういうこと。
ありがとよ、とバレットがフィーラーに呟くと、私達の前から消えて行った。
セフィロスには、逃げられた。
悔しそうな顔をするクラウド、だけど、私は少し、ほっとしてしまった。
あの全てを見透かしたような目が怖かった。
プロペラ音が近づいてくるのを感じる、アバランチのヘリコプターだ。
やっと、ここから出られる、そう安堵した時、爆発音と共に炎をまとって、ヘリコプターは着地することなく落下していく。

「残念だ」

そう言ってヘリポートに背中を向けたクラウドに続いてその場を去る。
自力で、ここから出るしかない。

「ルーファウス神羅、プレジデントの息子だ」

バレットとクラウドの目線の先には、白に身を包んだ男の姿があった。
対象的な漆黒の犬を連れて、私達を、じっと見つめている。
ルーファウスの元へと歩き出すバレットに、クラウドは、退くぞ、エアリスを家に帰す、と制止する。
けれど、神羅兵は私達へ銃を向けた。

「俺が時間を稼ぐ…名前も手伝ってくれるか」

うん、と即答した私。
一緒なら、きっと何も心配ない。

「お前、惚れた女を、わざわざ危険な目に合わせるってのか」
「見えるところに居た方が安心だ」

クラウドの返事にバレットは、お熱いこって、と茶化して、みんなを連れて行ってくれた。
私達は目を合わせ、こくん、と頷くと、それを合図に神羅兵へと攻撃をしかける。
私が銃で動きを封じると、間髪入れずにクラウドが叩き斬る。
開けた視界の先でルーファウスは口端を吊り上げてニヤリ、と笑う。

「お前はソルジャーらしいな…となれば、私は雇い主だ」
「元ソルジャーだ。世話になったな」
「どうやらお前も犬を一匹連れているようだ」

視線を私に向けて放ったルーファウスの言葉。
銃を持つ手に力が入り、きつく睨んだ。

「どっちの信頼関係が上か分からせてやろう」
「そういう関係か?クッ…おもしろい」

ルーファウスの指から何かが宙に弾かれる。
コインと判別した時にはルーファウスの両手から銃の引き金が引かれ、弾を受け取り勢いを増したコインはレールガンとして私達の間を切り裂き、爆発を起こす。
きっと、怯む間も与えられていない。
焦点を絞られないよう姿勢を低くして、手元を狙ってスナイパーライフルの引き金を弾く。

「生きてて嬉しいぞ、と」

背後から声が聞こえる。
この声は、まさか。

「レノ…!」
「また会えたなぁ」

レノの魔法で動きを封じられる、体が動かない。
ピラミッドの頂点に宙吊りさせられたように足が浮いて、感じるビリビリとした軽い痛み。
私を見たクラウドは魔法を解こうとピラミッドに斬りかかろうとしたが、ルーファウスの攻撃により行く手を阻まれた。

「私を殺そうとしたこと、絶対許さない」
「殺そうとした?あの場所で名前を死なせないためにとった最善の策だぞ、と」
「ふざけないで」
「大真面目」

レノは私の顎を掴んで、頬をべろりと舐める、ひ、と悲鳴を上げると、楽しそうにクツクツ喉を鳴らして笑っている、何が面白いんだ、このクズ。

「もうちょっと可愛い反応して欲しかったぞ、っと…危ね!」
「斬り殺す」

クラウドの剣先はレノまで後数ミリというところだった。
絶対見られた、今の。
自惚れてるかもしれないけど、クラウドから物凄い殺気を感じ取れたから。

「男の嫉妬は醜いねぇ〜」
「黙れ」

クラウドはレノを威嚇した後、またルーファウスの元へ斬りかかっていった。
動けず、どうすることもできない自分に苛立つ。
クラウドの役に立ちたいのに。

「チューしてくれるなら解放してやるけど?」
「お断りします」

レノのふざけた取引を一蹴していると、クラウドがルーファウスの銃を、はたきおとしていて。

「やべ、名前またな。俺は諦めてねぇ」
「早く諦めて」
「仕事も恋もハードル高い方がやる気でるぞ、と」

走ってヘリコプターに乗り込んだレノはルーファウスを連れて私達から去って行く。
ようやく解放された私は膝から地面へと崩れ落ちた。
また体が少し痺れてる。

「名前!」
「いった…」

大丈夫か、と言いながら私の頬をごしごしと拭くクラウド。

「クラウド、痛いよ」
「すまない、でも…」

また、消毒してくれるの?と言うと、流石にレノが舐めたすぐ後は嫌なのか、ぐ、と言葉に詰まり黙りこむ。

「冗談、さ、大丈夫だから早く行こ」
「…ああ、俺に良い考えがある」
**
「わ、私が運転するの?」

嘘でしょ、と呟く私にクラウドが、頼む、と肩をポンと叩く。
目の前には、かわいらしい色と形をした軽トラック。
神羅のショールームに飾られているバイクと車で逃走するというのがクラウドの”良い考え”だった、当然バイクに乗るのはクラウド。

「ペーパードライバーなんだけど」
「取り敢えず全員を迎えに行くまでは頑張ってくれ。室内だしどうにかなる」

室内の方が怖いんですけど…と思いながらも残された一本道を進むしかないと腹を括った私はエンジンをかける。
ブォン、と音が鳴り響いて、怯えながらもアクセルを踏み込んだ。
一足先にバイクを走らせたクラウドが、そのまま階段を下りていくのが見えて、背筋が伸びる、ガンガンガン、と車体が揺れて、怖すぎる!お尻痛いし!
ぶつからないように必死に前を見ていると、みんなの姿と、ハイデッカーの姿…神羅兵もいる。
流石に運転しながら銃は撃てない、どうしようと思っていたのもつかの間クラウドはバイクで華麗に敵を蹴散らしていった。

「…かっこよすぎる」

見惚れて事故ったら元も子もない、みんなを拾わないと。
急ブレーキをかけて、みんなを乗り入れた、よ、良かった…無事成功。

「ティファ…運転変わって…死ぬかと思った」
「ご苦労様」

運転席をティファに譲って、荷台へと乗り込む、バレットとレッドXIIIもいるし、少し狭い。

「おい、逃げるな!捕まえろ!」

ハイデッカーの正面にバイクを止めたクラウドはアクセルと一気に踏んで、それどうやってやってるの?と聞きたくなるような乗りこなしでハイデッカーの周りにいた神羅兵をバイクの後ろの車輪で吹っ飛ばして行った。
スレスレで攻撃を受けなかったハイデッカーは茫然として固まっていた、無理もないか。

「名前はこっちだ」
「え?」

顔だけふい、と自分の後ろへと向けて私に声をかけるクラウド。

「お前、二人乗りしたいだけじゃねぇのか!」
「…サポートを頼む」

バレットの冷やかしに軽く抵抗の色を示したクラウドに、少し笑いながら、バイクへと乗り込む。
いつか二人乗りした時とは違って、最初から腰を強く抱いてつかまると、クラウドの行くぞ、と言う合図で神羅ビルを後にした。
**
後ろを振り向くと、神羅ビルを取り囲む大量のフィーラー達。
今まで見たこともない程の大量のそれに気になりつつも、急いでその場から離れた。
…ウェッジは無事逃げられたのだろうか。
神羅兵の追手と逃げつつ、ただ目の前の道を走り続ける。
途中でバレットの銃撃によって爆発した神羅ヘリに巻き込まれそうになりながらも、車を守ってくれたのは、フィーラーだった。
レッドXIIIは言った、守っているのは私達ではなくて、この世界の運命だ、と。
敵を振り切ったところで、続く道は建設中なのか、道路が途中で切れている。
バイクから降り自分の足で立つと、視界の上に黒い羽根が映る、これは、

「…セフィロス」

空から、ゆっくりと音を立てずに降り立ったセフィロス、私達を見て、フッと笑みを浮かべた。

「てめえ、さっきは」

一歩踏み込んだバレットの体をエアリスは腕で止めて、違う、と言った。

「貴方は間違っている」
「感傷で曇った目には何も見えまい」

エアリスの諭すような言葉に反論するセフィロス、エアリスは繰り返し、貴方は間違っている、と力強く言い放った。

「命は星を巡る。だが星が消えれば、それも終わりだ」
「星は消えない、終わるのは」

クラウドは背中の大剣に手をかけて刃の先をセフィロスに向け、静かに言う。

「お前だ」
「…来るぞ」

セフィロスの言葉の後、一瞬にして周りを取り囲んだフィーラー、そして、セフィロスは言う。

「運命の叫びだ」

意識が飛ぶような激しい頭痛を感じた私は、そこで意識を手放した。

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