それは私以外の三人も同じだったのか、体を起こして今の状況を飲み込もうとする。
度々出て来るあの訳の分からない幽霊のようなものに吹っ飛ばされた。
怪我はない、一体、毎回毎回なんだっていうんだろう。
起き上がらないウェッジを見つけると、すぐに駆け寄って心音を確認する。
良かった、生きてる、良かった・・・。
ティファの、安全な場所に移そう、と言う言葉を皮切りにバレットがウェッジを担ぎ上げ、ティファはウェッジの猫を抱いた。
クラウドは猫に、よくやった、と呟く。
猫に話しかけるなんて、この短い間にクラウドも丸くなったな、なんて思って口元が緩んだ。
「ウェッジのこと、任せていいか・・・。俺は、ここで仲間を待つ。ウェッジが生きてたんだ。可能性はゼロじゃない」
バレットは落ち着いた、でも強い意志を感じる声色で言う。
私は、ビッグスとジェシーに触れた時の冷たさを思い出す。
二人は、もう、
「俺は、支柱の上でジェシーとビッグスと話した。だから、二人の状況は良く知っている」
返ってくる可能性は、と続けたクラウドにバレットは反論したい事が沢山あったのか、どもりながら、でもよ、と力なく返す。
星に返ったんだよ、とティファがバレットを見上げる。
「だから、そのために私達は星を守らないと、ね」
私がそう言うと、バレットは、帰る場所間違えやがって、とポツリ、呟く。
「立ち止まってたら、あいつらに笑われちまうな・・・ったく重てぇなぁ」
乾いた笑い声で笑いながら、バレットはウェッジを担ぎ直した。
頼る宛もなかった私達はウェッジをエルミナさんの所へ預けることにした。
本当に、エルミナさんには頭が上がらない。
ただただ謝罪を続ける私達にエルミナさんは、怪我人を追い出すような薄情はできないよ、と優しい表情だった。
「やはり、エアリスを取り戻すべきだ」
クラウドの言葉にエルミナさんは、またその話かい、と背を向ける。
エルミナさんの気持ちは、もちろん分かる。
でも、私達は神羅の地下施設で人体実験されているような痕跡を見つけた。
エアリスだって、同じような扱いを受ける可能性も、ある。
想像しただけで体が震えそうな感覚になる。
そんなこと、させる訳にはいかない。
「俺の方が神羅という組織を知っている。話を聞いただけでエアリスを解放するとは思えない。この世界で、たった一人の古代種となれば科学部門が黙っていないはずだ。科学部門には宝条という人を人とも思わない・・・」
「やめておくれ!」
つらつらと述べるクラウドをエルミナさんが制止する。
「エルミナさん、私からもお願いです。無事であればいいんです。無事な姿を一目見たいだけなんです。事を大きくしてエアリスを危険に晒すつもりはありません。だから・・・」
私の言葉にエルミナさんは、少し考えさせてくれないかい、と、返すだけだった。
今日は、もう、休んだらいい、と言ってくれたエルミナさんの言葉に甘えて、ここで寝させてもらうことになった。
マリンがベッドで休んでる部屋に、ティファと並んで二人で腰を下ろして壁際にもたれかかる。
ティファは私に、マリンを起こさないように小声で少し、話そっか、と言ってくれた。
寝られそうにないんだろうか、でもそれは私も同じだった。
ティファと二人で話すのは、すごく久しぶりだなぁと思い返す。
二人でセブンスヘブンで働いて、星の命を守るために動いて、年下だけど、しっかりしていて、どちらかというと妹よりも友達という関係性が私達にはピッタリだと思う。
できるだけ、暗い雰囲気にならないよう他愛もない話をする。
クラウドの女装おかしかったよね、とか、ティファのドレス可愛かったよ、名前も素敵だったよ、とか久しぶりに女子っぽい会話をしたりして、心に光が灯ったような、落ち着く、温かさを感じた。
こんな話をしていても、明日には死んでしまうかもしれないような可能性もあるんだ、なんて、ティファと話しながら頭の片隅で考えていると、伝えたいことがあったことを思い出す。
いつかのエアリスの言葉、だったらティファに言えばいいのに、そう言ってくれたなぁ。
死と隣合わせの状況に立った今だからこそ、傷つくこと、嫌われることを恐れて行動している場合ではないんだと気付かされたんだ。
「ティファに、話したいことがあるの」
少し真剣な面持ちで、告げる私にティファは、うん、と言いながら私に向き直してくれる。
「単刀直入に言うね。私、クラウドのことが好き」
そう言えば自分の口で言葉にするのは始めてだったような気がする。
私の言葉に、うん、と頷いたティファは私の目をじっと見つめている。
次の私の言葉を待ってくれているようなティファの優しい雰囲気に、正直な気持ちを紡ぐ。
「気になってたんだと思う。昔から・・・でもね、ティファがいるから、好きになっちゃ駄目だって思ってたの」
クラウドと再会した時は、この気持ちを悟られまい、悟られまいと振る舞うのに必死だったなぁ、と振り返る。
「でも、好きになっちゃったの。久しぶりに、叶わなくても好きでいたいって思ったの」
今までは、好きになってくれた人しか好きになれなかった。
こんな私なんかを好きになってくれるなんて、嬉しい、認められたような気になって、後付けの恋をしていた。
でも、クラウドへの気持ちは、一方通行でも、この人を好きな気持ちがあれば生きていけるって感覚、初めての感覚だった。
「ティファがクラウドのこと好きかもしれないなって思ってたから、ティファにも、この気持ちを伝えておきたかったの」
最後に、ティファはクラウドのこと、好き?と付け足す。
いつのまにか私は自分の手を固く握りしめていた。
「名前」
ティファは変わらず私の目を見つめたまま、じゃあ次は私の番だね、と呟いた。
「クラウドの事は・・・好きだったかもしれないね」
好きという言葉に過剰に反応してしまうも、確かに、その言葉は過去形だった。
だった、ってどういうこと、と聞き返したくなったが、ティファは何も言わずに私の話を最後まで聞いてくれたので、言葉を飲み込んだ。
「昔は好きだったかもしれない、女の子って自分のヒーローみたいな存在に恋することってあるよね?そんな感じだよ。再会した時に花を貰って、まだ好きなのかもって思ったけど一緒に過ごしていくうちに恋愛感情じゃないって自分で完結した。とっても大切な人だよ・・・名前と同じぐらい、ね」
話してくれてありがとう、嬉しい。と言ったティファに私は思わず泣いてしまった。
まるで今まで抑えていた気持ちが流れていくように、静かに涙が頬を伝う。
私もティファが大切だよ、と言うと、ティファも目が赤くなっているのに気付いて、また、涙腺が緩む。
「名前の好きな人って今まで、ろくなのいなかったから心配してたけど、まぁクラウドぐらい頭固いなら逆に安心かも」
何か、ジェシーと同じこと言ってる、と言ったらティファは笑ってた。
そして、ジェシーのことを思い出しながら二人で、また泣いた。
ティファの三倍ぐらい泣いたような気がする。
目や鼻の赤みは収まったと思うけれど、頭が重い。
ティファに外の風に当たってくるね、と伝え、家の扉を開けると、花の甘い香りに癒される。
吹く風が体を軽くしてくれる、心地良い。
エアリスの家から少し離れて、広場の赤い門に手をかけると、キィ、と少し耳に痛い音がした。
特に座る場所がない広場をぐるぐると歩き回り始める。
エアリスの言葉に助けられちゃったなぁ、今度は私がエアリスを助けたいのに。
晴れた心にまた雲が浮かぶ。
エアリスは無事、なんだろうか。
エルミナさんには悪いけど、本当は一人でも助けに行きたい。
でも、私一人じゃ絶対良くない方向に転ぶことなんて考えなくても分かる。
どうしたらいいかなぁ、と溜息をつくと、先ほどの耳に痛い音が、遠くで聞こえる。
門に目をやると、そこには、夜に煌めく金色が見えた。