「あ、今日だったっけ」
「ずっと前から何回も言ってるのに、もう」
私はわざとティファに気にしていないフリをした。
今日は一番壱番魔晄炉の作戦決行の日だ。
ティファがバレットにクラウドを紹介して、今回初めてアバランチの作戦に参加している。
そしてそのまま、この五番街に帰ってくる。
表に出さないようにしていたけど、久しぶりにクラウドに会えるってことで私はかなり心が落ち着かない。
今回の作戦には参加していないけど私はアバランチのメンバーで、クラウドとティファと同じニブルヘイムの出身。
まあ、二人より歳は四つも上だけど。
小さい頃、同じ村でクラウドのことを目で追っていた。
恋かは分からないし、当時の歳の差で考えると四つも下の子に恋愛感情を持ってるかもなんて、何か気持ち悪いと思って自分の感情を追求しようとは思わなかった。
それにクラウドにはティファなのだと幼い私の頭の中でもそう思っていたから。
物思いにふけっているうちにティファはみんながもうすぐ帰ってくるからと言ってマリンと一緒にセブンスヘブンの階段に座って待っていることにしたみたいで、扉を開けて店を出て行った。
ティファはすごいな…私はどういう顔で彼に久しぶりに声をかけたらいいのか分からなかった。
会えると分かった時からずっと悩んで悩んで、でも答えが出ることはなかった。
私はティファみたいに愛嬌はないし、恋愛事に関して自分に自信がない。
言いたいことは、はっきり言うタイプの人間だけど、それとこれとは別もので。
生きていた時間はそれなりに長いから今まで恋人は何人かいたけど、別れを告げるのはいつも相手の方。
自分を過大評価しているわけではないけれど、なんでダメなんだろうと思ううちにそのことを考えるのも嫌になって自衛をするようになり、やがて人を本気で好きになろうとするのをやめた。
だから、昔少し気になっていたと言ってもおかしくない存在のクラウドに会うのが怖かった。
もし好きになってしまったら・・・クラウドにはティファがいるからまた傷つくことになる。そう思っていた。
ふとため息がでる。
故郷を火の海にした神羅を許せないという気持ちはあったけれど、最近はそんな気持ちも薄れて、ただ淡々とやらなきゃいけないことを過ごす毎日だった。
ふと、外で声が聞こえた。
「とうちゃん、おかえりなさい!」
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
帰ってきた。バレットの声だ。ということはクラウドも。
扉の開く音とティファの声がした。
「クラウド、おつかれさま。それ、どうしたの?本物でしょ?珍しいね」
カウンター越しにクラウドの姿が見えた。
当時の雰囲気から少し憂いを帯びてるような気がする。
相変わらず整った容姿だな、と思った。
クラウドの胸には一輪の花が飾られてある、無意識に綺麗だな、とそう思った。
「名前!帰ったぞ!」
「バレット、お帰りなさい。ケガはない?」
「余裕だったな!」
「よかった。ね、マリン」
「うん!」
マリンに笑いかけると、マリンも笑顔になった。
ふとクラウドに視線を戻すと、彼は花を手にとると、ティファにその花を差し出した。
何か、見てはいけないものを見てしまった気分になり、近くにあったグラスに目を落とした。
反射して自分の顔がうつる。自分の顔なのに何を思っているか分からない表情をしていた。
「意外だな、クラウド、こんなことするんだ」
「五年ぶりだ、少しは変わるさ。バレットに話がある」
「うん、入って入って」
クラウドが店の中に入ってくると、綺麗な目が私を捉えた。
「名前、久しぶりだな。元気にしてたか」
「元気だよ、クラウドも怪我なさそうでよかった。すっかり大人になったね」
「まあ、な」
実際会ってみるとスラスラ言葉が出てくるもんだな、と我ながら思う。
そうこうしているうちにクラウドとティファがお店の外に出て行った。
お金の話かな・・・報酬、今日払えるほど今のアバランチに余裕はないと思うけど大丈夫だろうか。
「名前!クラウドを天望荘に連れていくんだけど、名前も一緒に行かない?今日はもう帰っても問題ないと思うし、」
ティファが私に声をかけた。
「え、でも」
「店のことなら気にしなくてもいいから、行こ?今日は沢山名前頑張ってくれたでしょ?」
「分かった、ありがとうティファ」
邪魔しちゃ悪いのに・・・と思いながらも口に出すわけにもいかないので黙ってついていくことにした。
クラウドとティファが今日のことを話しているのを聞きながら、特に何も喋らず天望荘への道を歩いて行った。
クラウドは202号室。
私が203号室に住んでいるから、ティファとクラウドを挟むことになる。
204号室の住居人には明日挨拶することにして、私はもう自分の部屋に戻ることにした。
寝る準備をしていたら、足音が私の部屋に近づいてきて、私の部屋の前でその音が止まった。
ティファが私に言い忘れたことがあったのかと思って、扉が開く前に私が自分の部屋のドアノブに手をかけた。
「ティファ、どうした・・・の」
「あ」
扉が開けた瞬間そこには目を少し大きく開けて驚いた様子のクラウドがいた。
「え、え?ここ私の部屋だよ?どうしたのクラウド」
「分かってる。名前と久しぶりに会ったのに、アンタ全然喋らないからと思って少し話そうかなと思っただけだ」
「別に何もないよ。何か久しぶりだし何話していいか分からなくなっちゃって。ごめんね」
「何もないなら、安心した」
クラウドのこういうところ優しいなぁと思う。
案外周りのこと見えてるんだよね。
「でもさ、こんな夜中に仮にも女性の部屋にいきなり来るなんてどうかと思うよ?」
「あ・・・す、すまない」
「ごめん、冗談。クラウドにとって私は近所のお姉ちゃんみたいなもんだもんね」
「・・・気をつける。でも、そんな感じだな。名前の顔見ると落ち着く」
「え、素直だねクラウド。まあ五年も経てば、なんとやらかなあ。でも嬉しい」
「名前は、五年間何してた?」
「うーん。なんかあまり記憶にないというか、気が付いたらここにいてアバランチに入っててって感じかなあ」
他人に興味なさそうなクラウドだけど、私に対してはいろいろ話を振ってくれる。
落ち着くって言ってくれるし、本当にお姉ちゃんみたいって思ってくれてるのかな?
心の拠り所になれているとしたら、嬉しいなってふと思った。
「私はおもしろい話別にないよ、クラウドは?」
「俺も別におもしろい話はない」
「興味あるけどなぁ。また今度気が向いたら聞かせてね」
「ああ・・・まあ元気なら良かった。そろそろ帰る、おやすみ名前」
「うん。おやすみクラウド」
そう言うとクラウドは少し目を細めて静かにドアを閉じた。
抑えこんでいた感情が出てこないように、気をつけろ私。
その日はなかなか寝付けなかった。