4、



 緑間が孤立から遠ざかった時、焦りを覚えた。常に一人だった緑間に近付いた自分だけが、ずっと緑間にとって唯一である訳ではないのだと悟ってしまって。
 ウインターカップ終了直後のことだ。部員全員で行われた打ち上げも程々に、緑間を自宅に誘った。打ち上げ中に他の部員に囲まれる緑間を半ば無理矢理連れ出して、緑間を自宅に連れ込んだ。
 まるで魔法にでもかかったように、緑間は従順だった。部員を振り払うように緑間を連れ立った時もそれを待っていたようで、暗い夜の道を歩いている時も、繋いだ手を振り払おうとしなかった。それまで忘れていた、打ち上げのお好み焼屋に置きっぱなしにしたチャリヤカーのことだって何も言わなくて、ひたすらに黙って、手を引かれるがまま、緑間は付いてきた。
 自室は汚くはない、至って普通の部屋だ。小学生の頃両親が買ってくれた机と、ベッド、そして本棚。他に大きな家具で特殊な物があるとしたら、一つの大きい冷凍庫だった。両親にどうしてもと懇願して買ってもらったものである。
 連れてきた緑間はベッドに座らせ、一言二言会話を交わした。なんでもない、ウインターカップのことだった。
 義務的な会話もそこそこに互いに黙り込むと、緑間は様子を窺うようにこちらを見てくる。何かを怖がるウサギのようだった。
「高尾は、俺のことを嫌いになったのかと思っていたのだよ」
「嫌いって、どうして?」
「最近避けていただろう」
 緑間の周囲に人が集まるようになってからのことだ。嫉妬深い自分が醜くて、緑間のことを避けていた。鋭くない緑間も、そのことには気付いていたらしい。
 理由を言おうか言わまいか悩んで、結局言わなかった。幻滅されるに決まっている。そのため、ただ一言「真ちゃんのことは好きだよ」と返した。「好きだ」と。
 どのようにその言葉を受け取ったのかは分からない。ただ緑間は、疑い深い視線を向けてきた。それもそうだろう、今まで何度も緑間のことを避けてきたのだから。警戒心を持たせてしまったことに罪悪感を抱く。と同時に、緑間に懐疑心を抱かせたことに、酷く優越感を覚えた。今まで誰にだって、緑間はこんな視線を向けただろうか?
「ねえ真ちゃん、俺、真ちゃんのこと死にたいぐらい大好きなわけよ」
 緑間はやはり訝しげな表情のままだ。そもそも緑間はこの「好き」の意味をどう取っているのだろう。友情なのか慕情なのか愛情なのか。少なくとも自分の好意は、そのどれでもなくただの劣情だった。
 机の上に無造作に置かれていたガムテープを手に取る。緑間は俯き、そのままこちらを見る様子がない。
「だから真ちゃん、ずっと俺の傍にいて欲しい」
 強引に組み敷いてその手首や視界を塞げば、緑間の瞳には厚く透明な膜が張られた。




Next→


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -