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教室の窓際、一番後ろ。
空白の席。
「先生、ノート集めて来ました」
一人の女子生徒の言葉と同時に、ドサッと重みのある音が職員室内に響いた。
何冊も重ねられたノートは机の上にきっちりと置かれ、乱雑に散らかったプリントを下敷きにする。
『おー、サンキュ。いつも悪いね』
「当番ですから」
『佐倉がクラス委員でほんと助かったよ』
「先生、少し机の上片付けた方がいいと思いますよ」
そう言って呆れたように散らかった机上へ目を向けるのは、佐倉栞(サクラ シオリ)。
肩より長い艶めいた黒髪を低い位置で二つに結び、幼い印象を与える顔はメガネによって隠される。
通い慣れた高校では学年も上がり、今では高校二年生。
成績優秀であり真面目な性格の彼女が、クラス委員に選ばれたのは至極当然の事のようだった。
「じゃあ教室に戻りますね」
『あっ、佐倉!ちょっと待った!』
職員室を後にしようとする栞を呼び止めると、彼女の担任である松本拓磨(マツモト タクマ)は苦笑した。
見慣れた彼のこの笑顔は、栞にとってあまり良い予感のしない笑みだった。
「……なんですか?」
眉を潜めて尋ねると、ヒラリ、差し出された一枚の紙。
『これ、成瀬に届けてほしいんだよね』
その言葉に栞は目を丸くすると、みっちりと数字の並んだプリントに視線を落とした。
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