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「ひ、広いね…凄く綺麗だし」
招かれるままに家の中に足を踏み入れた栞は、玄関先で室内を見渡す。
外観から把握していたものの、広く綺麗な室内に感嘆の声をもらした。
『別に普通だろ。早く上がれよ、俺の部屋二階』
「あ…う、うん…。おじゃまします…」
『スリッパそこ。誰もいねーから、堅苦しいの無しな』
「え?」
『親は仕事で夜まで帰らない』
「あ…そうなんだ」
玄関脇のスリッパに足を差し入れ、階段を上がっていく壱の後に続く。
この広い家に二人きりなのだと悟ると、栞は僅かに緊張の色を滲ませた。
昨日初めて会話した男と二人きりで、一体何を話せと言うのだろうか。
迂闊に家に上がり込んでしまった自分に、栞は肩を竦める。
それもそのはず、彼女は同級生の男の部屋に入る事など、初めての経験なのだ。
『ま、適当に座れよ』
二階の奥の部屋へと案内された栞は、目を丸くした。
こざっぱりとした室内は、いくつかの必要な家具以外余計な物は置いていない。
綺麗に片付けられたシンプルな部屋は、主の性格を表しているのか。
「広い部屋だね…」
『アンタそればっかだな』
呆れたような壱の言葉に苦笑すると、ふと棚の上に置かれた写真が目についた。
近付いて覗き込んだ写真の中には、壱とその横に写る女の子。
親しげに壱の腕に絡み付く少女は、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……この人…」
―…彼女?
栞がそう問い掛ける前に、背後に近付いた壱の手によりその写真は隠すようにパタンと倒された。
ふと首を後ろに向ければ、直ぐ真後ろにいる壱と至近距離で目が合い、ドキリと心臓が跳ね上がる。
今にも背中に密着してしまいそうな程の、距離。
『…なぁ、俺って学校でなんて言われてんの?』
怪し気な笑みで背後から栞の顔を覗き込むと、彼女の行く手を遮るように壱は両手で棚を掴んだ。
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