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学校を後にした栞は、宮藤とのやり取りで高まった気持ちのまま、またもや“成瀬”と書かれた表札の前に佇んでいた。

「…結局、来ちゃった…」

正直な所、もう来たくはなかった。
宮藤とのやり取りが無ければ、栞は松本に全てを押し付けまたいつもの平和な日々を送っていたであろう。

教室の一番奥に置かれた、空白の席を見てみぬふりして。

「……と、取りあえず…いるか確かめるだけでもいいよね」

そう自分に言い聞かせ、インターホンに指を近付ける。

「あ…」

が、そのチャイムを鳴らすより先に、栞の視線は別の方向へと向けられた。


『―…またアンタかよ』


溜め息混じりの言葉と共に、明らかに面倒臭そうな顔をした壱が立っていた。
どうやら丁度何処からか帰宅して来た様子である。
昨日と同様私服姿の彼は、栞を横切り門を開ける。

「あ、あの…!成瀬くん待って…!」

『うっせぇな、なんだよ』

「学校…!なんで来ないの…!」

『はぁ?お前に関係ねーだろ』

不快な表情で苛立ちを露にする壱に、栞は思わずたじろぐ。
“関係ない”と言われてしまえば、それまでなのだ。

「で、でも…このままだと退学とかになっちゃうよ…!」

栞のその言葉に、壱はピタリと動きを止めた。
冷ややかな視線を向けたかと思えば、何かを考えるような素振りで目を伏せる。

『……退学、ね。そうだな、話くらい聞いてやるよ』

「え?」

『茶ぐらい出すけど』

口許に怪しげな笑みを浮かべ、壱は玄関のドアを開いた。

話を聞くのは私なんだけど…

そう思いつつも、口をつぐんで言葉にはしない。
全く聞く耳を持たなかった昨日とは違い、家にまで招き入れてくれる壱の変貌ぶり。
“退学”という言葉が効いたのか、予想以上の進展に栞は彼を疑わなかった。


このドアが、栞の中に潜む秘密を暴く入り口だとは知らずに。




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