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そう、始まりはあの一言。
『武藤、俺お前の事好きなんだけど』
時刻は21時を廻る頃。
コーヒーを飲む為に準備してあるお気に入りのマグカップが、ゴトンと流し台に落ちた。
捻りっぱなしの蛇口からはジャーっと、無駄に水が排水口へと流れていく。
「え…、ごめん…なに…?」
『……だから、入社当時からお前が好きだったんだよ』
武藤柚那(ムトウ ユナ)22歳。
高校を卒業と同時に就職し、現在いる会社では入社3年目を迎える所謂OL。
童顔と言われる彼女の表情はまだ幼く、私服で歩けば高校生に間違われることも少なくない。
今日はたまたま仕事の量が多く、定時に帰れずまさかの残業。
広いオフィス内で夜遅くまで一人で残業ならば気も滅入ってしまうが、幸いな事に同僚である藤井雄史(フジイ ユウシ)が付き合ってくれた。
入社当時の研修から知り合い、同じ部署で働く気のおけない同僚だ。
そんな彼が突然、給湯室で愛の告白。
思ってもいなかった雄史の言葉に、柚那は瞳を瞬かせた。
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