Episode.11



「あの程度でそんなに恥ずかしがって、本番はどうする気なんだよ」

ベッドのシーツに顔を押し付けながら躰を横に向けて蹲る雛の頭を優しく撫で、陽介は楽しそうに笑った。

「本番なんて…私には無理です…っ」

「さっきのは子作りだけじゃなくて、避妊してすることもあるんだぞ。というより、子作り目的じゃない方が多いだろ」

「え…、なぜですか…」

「なぜって…、気持ちいいから?」

「あの行為が、気持ちいいのですか…?」

陽介の言っている言葉の意味が分からず、雛はシーツから顔半分を覗かせ窺うような視線を送った。
自分がどれだけ大胆なお願いを彼にしてしまったのか分かった今となっては、顔を合わせるのも恥ずかしい。
コウノトリだなんだと言って、葵が憐れむ視線を自分に向けていた意味もやっと理解した。
今すぐ布団に潜り込んで、誰とも顔を合わせたくない気分だった。

「そうか、性的に気持ちいいことも知らないのか。開発しがいがありそうだなぁ、お前は」

「か、開発って、私をですかっ…」

「そうだよ。しっかしセックスをこんなに拒絶することになるとは、責任感じるな。生々しく教えすぎたか」

「うう…、責任など感じないで下さい…。教えて頂けて、感謝しています…」

再びシーツに完全に顔を埋めて隠すと、雛を跨ぐように陽介は手をベッドに付いてそっと顔を近付けた。

「…なぁ、本当に嫌か?想像してみろよ、相手が好きな男だったら、どうなる?」

「え…?」

「好きな奴、いるんだろ。触られたいとか、思ったことないのか?」

陽介の言葉にシーツで隠していた顔を上げると、雛はぐるぐると思考を働かせた。
教えてもらったあの恥ずかしい行為を、葵もするというのだろうか。
自分の知らない女性と肌を重ねて、あの綺麗な手で触れるのだろうか。

「……柏木さんも、するんでしょうか…、ああいうこと…」

「…柏木?執事の柏木か?」

「そう、です…」

「俺の見立てじゃ、アイツは相当場数を踏んでるぞ。そもそもあれだけ容姿の整った男に女が寄ってこないわけないだろ。うちの使用人の女達も、アイツが来てから色めきだってたぞ」

「そ、そうなんですか」

「おいおい、まさかお前もその一人か。好きな男って柏木だったのか」

「は、はい…」

見てわかる程に落ち込んだ様子の雛を見て、陽介は呆れたように溜め息を吐き出した。

「アイツはお前には荷が重いと思うが、まぁ、可能性がないわけじゃないだろ。迫ってみたらどうだ、抱いて下さいって」

「だ、抱いて…とは…」

「だから、さっき教えたことを柏木にしてもらえばいい」

「ひっ…!無理ですっ…!」

「むりぃ?本当か?」

「本当ですっ…あんな恥ずかしいこと、誰ともできませんっ…」

性的なことを完全に拒絶する雛の真っ赤になった頬を陽介は両手で包み込むと、ゆらゆらと揺れる大きな瞳を覗き込んだ。
お互いの息がかかる程の至近距離に、思わず雛は口を噤む。

「…よく考えろよ。ちゃんと想像して。柏木のこと好きなんだろ?柏木がお前の躰に触るのは、嫌なことなのか?お前の全身に触れて、躰中にキスされて、ひとつになるのはそんなに拒絶することか?」

小さな子供に言い聞かせるような穏やかな口調の陽介に、雛の心は大きく揺れた。
葵に抱き締めてほしいと思ったことなら、何度もあった。
あの薄い唇が、自分の唇に触れたらと、想像したことだってある。

「その行為でしか見れないような、柏木の知らない一面を、見たいとは思わないのか?」

見たい。
私の知らない葵を、知りたい。
決して見せてくれない、執事ではない彼の顔を、見てみたい。

「っ…触って、ほしいです…っ」

葵の手が自分の躰を滑ることを想像するだけで、感じたことのない不思議な感覚が、じわじわと下腹部を疼かせる。
この感じる熱の正体は、一体なんなのだろうか。

「抱き締めて…キス、してほしいです…。私っ…、彼のことになると、こんなに欲望まみれなんです…っ」


どんなに望んだところで、葵が私の気持ちに応えてくれることなど、ないというのに。





  
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