澄はそわそわとしながら如月家の前を落ち着きなく歩き回っていた。
授業が終わった後所属している書道部に顔を出し、運動部よりも早く終わって帰宅した。
自宅に荷物を置いて着替えを済ませ、こうして如月家の前にいる。
弓道部に所属している礼の帰りを待つためだ。
学校で待とうかとも考えたが、迷惑になる可能性を考えてそれは避けた。
暗くなった田んぼ道を時々眺めながら、礼の姿を探してみる。
「…遅いなぁ」
ぽつりと呟き、おとなしく門扉の前で膝を抱えてしゃがみ込む。
つまらなそうに地面へと視線を落とし、ゆらゆらと意味もなく躰を揺らす。
「あ…!」
数分そうしたのち、少し離れたところに田んぼ道を歩く礼の姿を見つけた。
暗くてはっきり見えないが、澄は確信を持って駆け出す。
「礼―!おかえりー!」
名前を呼びながら笑顔で駆けつけてくる澄の姿を視界に捉えた礼は、困ったように笑みを浮かべた。
尻尾をぶんぶん振った犬のように嬉しそうに駆け寄って来るのだから、可愛くてしょうがない。
「ただいま。なんでいんの?また外で待ってたのか?」
「うん、家の前で待ってた」
礼は両耳にしたイヤホンを外してポケットにしまい込むと、笑顔を向ける澄の頭を優しく撫でる。
「外で待ってるくらいなら連絡すればいいのに。一言言ってくれたら帰って来た時にこっちから連絡できるだろ」
「あー…そっか。忘れてた」
現役の女子高生とは思えない発言に礼は苦笑すると、澄の歩幅に合わせて自宅の方へと歩き出す。
「その…家でじっとしてられなくて。早く礼と話したくて…話せるの、嬉しくて…携帯の存在忘れてたみたい」
もじもじと指を絡ませながら澄はそう言うと、自身の発言に急な羞恥がせり上がり、頬が熱くなるのを感じた。
一人で舞い上がってしまっていたような気がする。
「と、友達にちゃんと謝ったら許してもらえて、それを早く礼に伝えたくて…。あの、待ってたんだけど……そんなこと、わざわざ報告されても困るよね」
昔と同じ感覚でいたことに澄は気恥ずかしくなって俯いた。
礼や律と話せることが嬉しくて、まるで子供のようにはしゃいでしまっていた。
俯いて押し黙る澄の顔を、礼はひょいっと覗き込んだ。
「…分かってないなぁ、澄は」
端正な顔に優し気な笑顔を浮かべた礼が、澄の瞳に映る。
「話せて嬉しいのは俺も同じだよ。こうやって待っててくれることも、実はかなり嬉しい。澄がその日あったことを俺に話したいと思ってくれることも、自分の嬉しかったことを報告してくれるのも」
「…これでも俺は昨日からずっと舞い上がってる。澄とこうして話せることに」