「…華恋モテるもんね」
「そうなの、だから結構中学の時大変だったのよ」
否定することなくうんうんと頷く華恋を見て、澄は思わず苦笑した。
守ってあげたくなるような愛くるしい容姿とは裏腹に、華恋は凛とした強さを持った女の子だと澄は思った。
思えば不安でいっぱいだった入学式の日に、真っ先に明るく声をかけてくれたのも彼女だった。
「だから高校では絶対、信頼できる友達を作るって決めてたの」
華恋の強い意志を持った言葉に、澄はさぁっと青ざめる。
「ご、ごめん…、私早速華恋の気持ち裏切っちゃって…」
「ぷ、まだ言ってる。それはおあいこだって言ったでしょ。ちゃんと話してくれたことが、私にとってはすごく嬉しいことだったんだよ」
「澄はねぇ、きちんと必要な時にありがとうとごめんなさいが言えるいい子なのよ。私は我が強いから謝るの苦手なんだけど…。実を言うと入学式の日に寂しそうな顔してる澄が印象的だったから声かけたの。なんであんな顔してたのか、今日やっと分かったね」
華恋の言葉に、胸が熱くなるのを感じた。
彼女の観察眼にはびっくりさせられることばかりだ。
入学式のあの日、礼と律の姿を探した。
“三人で同じ高校に行こう”
その約束を果たすことができたのに、一緒に喜ぶこともできない。
二人はもう手の届かないところにいるような、そんなどうしようもない寂しさに潰されそうだった。
あの日の私を救ってくれたのは、間違いなく華恋の笑顔だった。
「…ありがとう、華恋」
「うん。というか私たち、まだ六月なのに友情深めまくっちゃったね。これから楽しいイベントもいっぱいあるし、高校生活楽しも!私はイケメン彼氏作るの目標だから!」
「あはは、華恋ならすぐ達成しそう」
「そうねぇ、でも妥協はしないから!やっぱりまずは先輩に連絡先渡してみようかな」
「今の華恋ならあっさり渡しちゃいそうな勢いだね」
「…この勢いのまま渡しに行くか…」
「さっきいたから追いかけちゃう?それとも教室に押しかけちゃう?」
二人で顔を見合わせて沈黙すると、我慢できずに同時に吹き出した。
中庭に二人分の大きな笑い声が響き渡る。
楽しそうに笑う二人の元に昼休みの終わりを告げるチャイムが届くのは、あと数分後のことだった。