◎成長途中:過去拍手

特別short story
〜成長途中〜



「……浅見、なにやってんだ」

背後から唐突に声をかけられ、蓮は躰をビクッと跳ねさせた。
聞き慣れた声に後ろを振り返ると、怪訝な顔でこちらを見ている蒼井と目が合った。

「しっー!蒼井も隠れて!」

唇の前に人差し指を立てて静かにするようアピールすると、校内一階の渡り廊下を繋ぐ両開きのドアの陰に躰を隠して顔だけをひょっこり覗かせる。
授業合間の休み時間に渡り廊下にある自動販売機で飲み物を買う予定だった蒼井は、訳も分からず眉を寄せた。

「おい……、なんなんだよ」

蓮の行動を理解できないと言った顔で一瞥し、彼女の見ている渡り廊下へと視線を送る。

「……宮藤と里中じゃん」

視線の先にいたのは、親しげに談笑する宮藤と英語教師の里中だ。
校内の男子生徒に人気がある里中は、蒼井の目から見ても美人と呼べる類の女性だった。

「さっきから楽しそうに話してるの!先生、何話してるんだろ……」

「……くだらね」

「あぁ〜!先生が笑ってる!!なんであんなに楽しそうなの!」

はらはらしながら二人の様子を見ている蓮の姿に、蒼井は呆れたように溜め息を吐いた。
自分の好きな女が他の男のことでやきもきしている姿など見ても何も面白くない。
ドアにかじりついて離れない蓮を見て、蒼井の中のちょっとした悪戯心が顔を出す。

「結構お似合いじゃねーか。お前みたいなちんちくりんな奴より、里中みたいな女の方が宮藤には合ってるんじゃねーか。浅見と違って里中は胸もでかいしな」

にやりと口角を上げて蓮を見ると、あからさまに衝撃を受けた顔をしている。
ショックを受けているのが丸わかりで、面白くて仕方がない。

「な、なによぉ……、私はまだ、成長途中なんだから……。これからもっと大きくなる予定なんだからっ……」

「ほんとかよ」

「先生にだって、おっぱい少し大きくなったって言われたもん……、これから先生好みの大きさになる予定なんだからっ……」

思いもよらない反撃を受けて、蒼井は眉間に皺を寄せた。
二人の関係をはっきりと見せつけられたような気分になり、腹立たしい。
言い返すなりすぐに宮藤のいる方へと視線を戻すところも、今は許しがたい。

「……どれ、確認してやるよ」

「きゃっ!」

背後から蓮の胸を両手で鷲掴むと、確かめるように揉みしだく。

「セクハラ……!!」

すぐさま蓮は身を捩じって蒼井の手から逃れると、振り向きざまに平手を飛ばす。
それをひょいっと軽くかわし、にやにやと蒼井は楽しそうに笑った。

「なんだよ、お前が大きくなったって言うから確認してやったんだろ」

「〜〜っ!蒼井は分からなくていいの!」

「そうかよ……あ、」

蓮をからかって遊んでいた蒼井は、彼女の背後に現れた人物を見て思わず声を上げた。


「……お前ら、なにやってんだ」

蓮の後ろには里中との会話を終えた宮藤が不機嫌そうな顔で立っていた。
不穏な気配に恐る恐る振り返る。

「せ、先生……、あの……」

「浅見、随分と楽しそうだな」

「あの……、どこから見て……?」

不適な笑みに見下ろされ、蓮は笑ったまま躰を硬直させた。

「んじゃ、俺はこの辺で」

面倒なことになりそうだと思った蒼井は、何事もなかったかのようにさっさとその場を後にする。
普段多少のことでは顔色ひとつ変えない宮藤が明らかに不機嫌になっていたことに、先程まで感じていた苛立ちも少しは収まった。

あの程度のことで機嫌を悪くするとは、余程蓮のことが大事らしい。

「……アイツの執念の勝利ってわけか」

一年の時から宮藤をしつこく想っていたことは知っている。
今じゃすっかり宮藤を振り回すくらいにはなっているというわけだ。


「……浅見、今週覚えてろよ」

隙だらけだとこってり絞られた後に放たれた宮藤の言葉に、蓮は嬉しいやら怖いやら複雑な表情で目の前の人物を見上げた。


その週末に宮藤の家でたっぷり可愛がられたのはまた別の話。




END





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