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わいわいとした楽しそうな声がそこら中から聞こえる教室内で、蓮は手鏡を片手に首の後ろを確認しようと頭を左右に傾けながら試行錯誤していた。

「蓮、なにしてるの?」

「秋歌、いいところに!首筋にある絆創膏、見えないようになってる?」

「絆創膏?あー、この大きいやつ?後ろからは見えないから大丈夫だよ。怪我でもしたの?」

「ちょっとね。虫に刺されて掻いちゃって」

「あらま、気を付けなよ」

「うん、ありがとう」

文化祭当日。
白地に薄紅の蓮の花が咲き誇る生地に、深い赤色のふわっとした兵児帯を大きめのリボン結びで締めた浴衣を着た蓮は、いよいよ始まる文化祭に胸を躍らせた。
普段下ろしている髪をアップにまとめ、浴衣に合わせて蓮の花の簪を付けている。

昨日の前夜祭は、結局のところ途中から参加することができた。
クラスメイトの柿谷が休憩の時間に蒼井からの連絡に気付いて、すぐさま会議室に駆け付けてドアを開けてくれたのだ。
勝手なことをしたと散々謝られたので怒る気にもなれず、嫌な気持ちで文化祭を迎えるよりはと、蓮は柿谷のことも蒼井のことも許すことにした。

体育館に行く前に、蒼井が濡らしたハンカチで首筋の噛み痕を冷やしてくれたので、この件に関してもこれ以上責めるのはやめた。
とは言え次の日にはしっかりと赤い痣となって残ってしまっていたことに、がっくりと肩を落としたのが、まさに今朝の出来事だ。
今日は四角い絆創膏を貼り付けて痣を隠し、浴衣からぎりぎり見えないようにしている。

「蓮の浴衣かわいいね。名前にぴったり」

「そうでしょ〜!お母さんとこの浴衣見付けた時は、これしかないって思ったよ」

「宮藤先生に見せるの楽しみだね。うちのクラスに来てくれるかなぁ?」

「うーん、来ない気がする…。先生、外の見回りするって言ってたし」

「あー…、宮藤先生の場合、他のクラスに引っ張りだこだろうしね」

飾り付けられた教室で、午前中の接客を担当する蓮と秋歌は準備もそこそこに会話を楽しむ。裏では数人の料理担当のクラスメイトが忙しなく動いているようで、一般の客が校内に入って来る時間が迫っていた。

「そういえばミスコンとかの発表って明日だっけ?」

「明日中庭でやるらしいね。実は私、男子の方は先生に入れちゃった」

「え、そんなのあり?」

「だって先生が一番かっこいいもん!」

「ぶれないねぇ〜蓮は」

「ええ、もう、先生一筋ですから」

文化祭実行委員が毎年企画しているミスコン、ミスターコンは、盛り上がる人気イベントの一つだ。本来投票できるのは生徒のみなので、教師に入れた票は無効になるだろうがそんなことは関係ない。

「九時だぞー、お客さん入って来るけど準備大丈夫かー?」

担任の松本が教室の入り口に掛けられた暖簾をくぐって顔を出すと、色とりどりの浴衣に身を包んだ生徒達が一様に笑顔を見せて返事を返した。

文化祭一日目が始まったのだ。




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