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「私が先生に関わることで蒼井に協力なんてするわけないでしょ。前に酷い目に遭わされてるんだから、信用できないよ」
眉を寄せてじとっと疑わしげに蒼井を睨み、以前変な薬を飲まされ散々な目に遭ったことを指摘する。
あれがきっかけで宮藤と付き合うことになったとは言え、二度とあんなことになるのは嫌だった。
「あれは結果的に良かっただろ」
「良くない!しかも今回は先生に敵意持ってるでしょ!先生に何かしたらもう許さないからね!」
「…お前ってほんとに先生先生って、そればっかだな。少しは周りの男も見たらどうなんだ?」
「そんな必要ないから、いいの。私が好きなのは、先生だけなんだから」
大真面目な顔でそう言う蓮へと蒼井は冷ややかな視線を送ると、ハッと小さく乾いた笑いを漏らした。
蓮が宮藤のことを口にする度に苛立ちが募るのは、嫉妬か、羨望か。
「…あっそ。別に、言ってみただけで、最初から協力なんて必要ねぇーけどな。無理やりの方が、アイツもムカつくだろーし」
「なに言って…」
低い声で冷たく放たれた言葉に蓮は訳も分からず困惑すると、意味深な笑みを浮かべた蒼井に後頭部を掴まれ、そのまま引き寄せられた。
「っ…、やっ…!」
近付いた蒼井の顔に何をされるか察した蓮は、咄嗟に相手の胸板を押して逃げるように椅子の背もたれに躰を寄せると、「あっ」と驚いた声と共に勢い余ってパイプ椅子ごと床に倒れ込んだ。
ガタンッという大きな音と同時に床に尻もちを付き、痛みで顔を苦痛に歪める。
「いったぁ…」
「あーあ…、大丈夫か?」
「〜〜っ、大丈夫じゃないよ…!い、今…っ、キス、しようとしたでしょ…っ!」
「したけど…そんなに怒んなよ。パンツ見えてるぞ」
悪びれる様子もなくそう言って立ち上がった蒼井を見上げ、蓮は慌ててスカートを抑えながら立てていた両膝を下ろした。
打ち付けた尻と腰の辺りがじんと痛み、自分の目線に合わせて目の前にしゃがみ込んだ蒼井へと恨めし気な視線を向ける。
「急に驚かすのやめてよ」
「忠告しただろうが。俺にあんまり隙見せんなって」
「なんでよ…っ、無理だよ…。同じクラスなのに…」
「…そんなんだから、俺みたいな嫌な奴に付け込まれるんだよ」
「どうして…、」
“そんなこと言うの?”
そう続ける筈だった言葉は、不機嫌そうに眉根を寄せた蒼井によって阻まれた。
肩を掴まれ後ろに向かって押されたかと思うと、抵抗する間もないまま躰を床に押し付けられ、組み敷かれる形となった。
突然冷たい床に仰向けに寝転んだ躰は、自分の上に跨る蒼井の存在で身動きができず、蓮はただ呆然と目を見開いた。
「蒼井…どいてよ…」
「…安心しろよ。別に犯したりなんてしないから」
「あ、当たり前でしょ…っ、いいからっ…早くどいて…っ」
「嫌だって言ったら?」
蓮を見下ろしながら蒼井は口角を上げると、彼女のワイシャツのボタンにそっと手をかけた。