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「浅見、そろそろ帰る準備しろよ」
キシリとベッドを緩く軋ませ腰掛けると、上半身裸の宮藤は水の入ったペットボトルを口に運んだ。
身に着けたジーンズはフロントボタンの外れた状態で、今しがた穿いたばかりである事が窺える。
激しい運動後のような心地良い疲労感を感じながら、喉から流れ込んでくる冷たい水で汗ばんだ躰の温度を体内から下げていく。
「うぅ〜…先生のおにぃ」
宮藤の視線の先では一糸纏わぬ姿の蓮がうつ伏せで小さな口から荒い息を漏らし、涙で滲んだ瞳をこちらに向けている。
つい先程まで繰り返し行われていた行為の熱が冷めぬまま、全身を支配する余韻で身動きするのも億劫だった。
「なんだよ、若いのに体力ねーな」
「先生が体力おばけなんでしょ…!あんなに何度も何度も…っ」
「昨日のお前には負けるぞ」
「昨日はいいの…!恥ずかしい格好いっぱいさせるし…もうっ…もう!」
「…怒るなよ、泣いて喜んでたくせに」
泣きながらもう無理だと訴えていたところをがんがん容赦なく突いてきた人の言うことだろうかと、蓮は恨めし気に宮藤を睨んだ。
ひょっとすると昨日のように宮藤が疲れ切っているのは稀な事だったのではないか。
そう思うと今後自分の身が持つだろうかと、蓮は些か不安になった。
「浅見、顔こっち向けろ」
「え?…んっ、」
低い声で呼ばれたかと思うと顎を掴まれ宮藤の薄い唇が蓮の口を塞ぎ、口内に水が流れ込んでくる。
喉に落ちてくる水をほぼ無意識にごくんと飲み込み、口の端から飲み込み切れなかった水分が零れ落ちて首を伝い落ちた。
「っ…先生…」
「少しは機嫌直ったか」
「せんせ、もっと…」
「もう自分で飲めるだろ」
「違くて…キス、もっと…」
躰を横向きにしてねだるような瞳を向ける蓮へと宮藤は眉根を寄せた渋い顔で応えると、ベッドに手を付いて深いキスを落とした。
濡れた唇を開いて舌を差し入れ、水によって冷えた舌の感触を堪能しながら絡めとる。
宮藤の手が剥き出しの素肌を滑り柔らかな膨らみを包み込むと、蓮はぴくっと躰を反応させた。
「んっ…、だ、だめ…、もうだめ…っ」
「しねぇーよ、触ってるだけ」
「やっ…、触っちゃ、だめなのっ…」
「なんで」
「あ…っ」
問い掛けと共に乳首を摘ままれ、その甘い痺れを堪えるように首をぶんぶん振って宮藤の胸板を押した。
「触るの禁止…っ、また、したくなっちゃうからっ」
「してもいいけど」
「いやっ…!もう無理なの…、疲れたの!」
「…どっちなんだよ、面倒くさい奴だな」
問題があるのは宮藤の方な気がするというのに「面倒くさい」と言われるのは心外だった。
蓮が膨れっ面で宮藤を見つめていると、大きな手で頭を撫でられ、汗で濡れた前髪を優しく掻き分けられた。
「むくれてないで、風邪引くから早く服着ろよ。あと、帰る前に連絡先教えろよ」
「えっ…!!先生の教えてくれるの!?」
「連絡先知らねーと困るだろ」
「今まで何度聞いても教えてくれなかったのに…!」
「生徒には教えないようにしてるからな」
「じゃあ、知ってるのは私だけってこと?」
「…生徒ではそうなるな」
「わぁーい!」と裸のまま両手を上げて喜ぶ蓮を目の前に、宮藤は眉間に皺を寄せた。
ほんの数秒前まで仏頂面で睨んでいたのはなんだったのか。
とは言え機嫌が直ったのならまぁいいかと、いそいそと脱ぎ捨てられたTシャツを着ている蓮を見ながら宮藤は小さく息を吐き出した。