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階段下の方から、がやがやとした話し声が聞こえる。
そろそろ昼休みの終わりの時間が迫ってきていた。
「浅見、知りたくないのか?宮藤の本音。それとも完全に自分に望みが無いことを知るのが怖いのか?」
「そ、それは……、」
「はっきりさせたら、諦めも付くんじゃないのか?」
「〜〜っ、だめだったら、蒼井と付き合うってこと…?」
「…そうしてくれると俺は嬉しいけど」
「…どう考えても蒼井が有利だよね…」
「そうだな、どちらかと言うとお前に諦めさせたい気持ちの方が強いからな」
しれっとそう言う蒼井を、蓮は困惑した表情で見つめた。
こんな意味の分からない勝負をする必要はあるのだろうか。
この間の宮藤の言葉が、彼の本音のすべてだったんじゃないだろうか。
無意味な事をして、もう一度傷付く必要はあるのだろうか。
ぐるぐると脳内をいろんな疑問が駆け巡り、蓮の思考は混乱していく。
この話に乗れば、結果がどうであれこの辛い気持ちが少しは楽になるのだろうか…?
完膚なきまでに終わりにしてもらった方が、いっその事清々しい気持ちになれるのかもしれない。
「…もし先生の気持ちが私に全くなかったら、私は先生の事…忘れられる…?」
今にも泣き出しそうな震える声でそう言うと、蒼井はいつになく真剣な表情で蓮の赤くなった瞳を気にするように目尻を親指でなぞった。
「その時は、俺が忘れさせてやる」
「……変なの、真面目な蒼井って」
「うるせぇな、なりふり構ってられねーんだよ。早くどうすんのか言え、時間がない」
「…先生に絶対迷惑かけないって約束して」
「約束する、宮藤には迷惑かけない。アイツに何かするわけじゃない」
じっと探るように蒼井の目を見て考え込んでいた蓮は、躊躇いがちに小さく頷いた。
勝負のやり方は分からないが、蒼井の言葉に嘘はないと判断した。
「……言っただろうが少し手荒になる。我慢しろよ」
「え?」と疑問の言葉を口にしたのとほぼ同時に、蓮の躰は蒼井の手によって階段の踊り場にいとも簡単に押し倒された。
驚いて目の前にいる蒼井を見上げ、目を丸くする。
「な、なに…?」
「こっちは言ってなかったが、躰を張るのはお前だ。捨て身で宮藤を繋いでみろ」
にやりと口角を上げてポケットから錠剤ケースを取り出すと、片手で器用に中身を取り出しさっさと口に含んだ。
一連の流れを訳も分からず目で追っていた蓮は唐突に蒼井に顔を掴まれると、抵抗する暇もなく唇を奪われた。