4
しかし、その人とはあっさり再会できた
二週間後のことだ。
なんてことはない。
同じ駅を使っていて、同じ電車に乗る人だった。
いつも同じというわけじゃないから気づかなかった。
たまに遅くなったときに時間が重なるのだ
「あ、あの!」
その日は残業後だったため同じ電車で、降りるタイミングが一緒だったから気がついた。
反射的に駆け寄って声を掛けたものの、目を向けられて思わず怯んだ。
こ、こわい。
「わ、わたし、いつぞやの助けてもらったものですが」
「……うん」
「え、えと、そ、その節は有難うございました!」
いい大人とは思えない礼の仕方だ。
深く頭を下げると、感情のない声で、うん、と頭上で聞こえた。
「そ、それで、お借りしたタオル、返そうと思ったんですが、どろどろでだめになってしまって」
「ああ、いいよ別に」
「いえ!買って返そうかと思ったんですが、同じのが探せなくて、それで……」
私は鞄から財布を引っ張り出し、千円札を三枚取り出した。
「これで、弁償になれば」
「いや、ふつーのタオルだから」
「いえ、ほんとうにすみません」
「そういうつもりで渡したんじゃねぇし」
「いえいえ、とても助かったので」
彼は固辞したが、私は頑として引かなかった。
ここで渡せなかったら、この二週間悶々としていた気持ちが晴れない。
「あーじゃあわかった」
何度かそのやりとりを繰り返した後、彼は困ったような呆れたような口調でそう言い、千円札を握った私の手を軽く叩いた。
「これで飯おごって。それでいい?」
予想もしなかった展開に、次に困惑したのは私だった。
← | →
戻る