2
「大丈夫ですか」
誰か思い出せないでいるうちに、男が口を開いた。
は、と訳も分からず声が漏れる。
「どうぞ」
上着を差し出されて、言わんとすることを悟る。
「いえ、だ、だいじょうぶです」
私は反射的に固辞した。
差し出されたのは白いスポーツタオルで、私が使えば汚れることは必須。
この惨状を見て声を掛けてくれたらしい。
ヤンキーだなんて思って申し訳ない。
「帰れねぇだろ、そんなんで」
「い、いや、でも、汚れちゃう……」
「別にいい。無いよりましだろ」
もごもごと答えているうちに、彼は面倒そうに私の腕にタオルを押し付けて歩き出した。
「え、ちょ……すみません」
わたわたと振り返り、背中に掛けた謝罪は届いたのだろうか。
男は振り返りもせず、さっさと町の中へ去っていった。
ぽかんとその背を見送り、私は手に残った見知らぬ男のタオルを眺める。
いったいどうしたものか。
でも、彼の言う通り、いくら暗いとはいえ、このどろどろの姿で帰るわけにもいかないし。
恐る恐る、タオルを肩に引っ掛ける。
サイズが大きくて、汚れた服を隠してくれるのが助かった。
最低な一日の最後、ひとつの親切のおかげで随分救われた。
私は小さくくしゃみをして、ようやく帰路へと足を踏み出した。
← | →
戻る