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今日は朝からついていなかった。
寝坊して朝ごはんは食べ損ねるし、夜のうちに雨が降ったせいで洗濯物を濡らした。
計算をミスって資料作成し直す羽目になるし、そのうえ人の仕事までもらってしまい、残業して帰宅はいつもより二時間遅い。
さらに、駅を出た途端これだ。
駅前のロータリーから急発進していった車が跳ねた水たまりを、もろに被ってしまって立ち尽くす。
よりによって今日は薄手のブラウスだ。
勘弁して。
「……」
言葉もなく動けずにいる私を遠巻きに、事態を目撃した人々が不憫そうな目を向けてくる。
もう暗いし、服が透けていたとしてもまぁ何とかなる。
しかし、汚れてしまった服は使い物にならないし、肌にまとわりついた不快感は収まりそうもない。
これでは店にも寄れないし、晩ごはんも買えない。
それより周囲の人々の視線が痛い。
こんなに惨めな思い、学生時代以来かもしれない。
とりあえず、ハンカチ。
ごそごそとカバンをあさっていると、ふと隣に人の気配が立った。
次はなんだ。
恐る恐る顔を上げると、見知らぬ男が立っていた。
見知らぬ?
いや、どこかで見たことあるような。
切れ長の目がこちらを見下ろす。
黒髪にスーツ姿で真面目そうな容姿だが、気怠そうな姿勢や気の強そうな表情からは、ヤンキーの気配が溢れ出ている。
私と最もかけ離れた人種。
関わるはずもないが、では、いったいどこで。
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