彼女はいつも本を読んでいた。
その向こうで紅葉が散っていくのを、俺はいつも黙って見ていた。

「紫」

彼女は本に視線を落としたまま、俺の声に気づく様子はない。

「ゆかり」

近づいていってもう一度呼びかけると、彼女はようやく気づいたように顔を上げた。
長い黒髪が赤い着物にぱらりと落ちる。
彼女の丸い黒目が俺を捉え、心臓がどくんと音を立てた。

「雨だよ。そこにいたら濡れる」

俺の言葉に彼女は目を瞬かせて、ゆっくり外に目を向ける。
ぱらぱらと雨が庭の木々を濡らしている。
だんだん雨足が強くなって、家の中まで入ってこようとしていた。

紫は膝の上に本を伏せ、庭を遮る雨の線に目を細める。
彼女は雨が好きだ。
雨が降ると、静かに外を眺めている。

だが、今日はゆっくりと瞬きをして、地面に落ちる雨粒のように呟いた。

「散っちゃうわ」

その言葉に、俺は意味がわからずに首を傾げた。
そして彼女の視線を辿り、それが紅葉のことだと気づく。

彼女はそれ以上何もしゃべらなかった。
俺たちは、黙って外を眺めていた。
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