7
がらんとした神社を抜けると森に出る。
蝉が盛大に鳴いている。
木々が空を覆うように、青々とした葉をそよがせている。
「誰もいないね」
「誰がこんな虫の多いとこ来んねん」
私が呟くと、勇介はぱちんと腕を叩きながらそっけなく答える。
「でも、ちっちゃい頃よく蝉取りに来たじゃない」
「今の子供は家の中でゲームでもしてるんやろ。じゃなかったら、学校で遊んでるか釣りしてるか」
「ああ、私も久しぶりに釣りしたいな」
ついてきたことを後悔している様子の勇介にはおかまいなく、私は畳んだ日傘を揺らしながら進んでいく。
こんな自然の中、久々でわくわくする。
土の匂い。緑の匂い。ひんやりした空気の中、きらきらと木漏れ日が輝いている。
「やっぱりいいね、自然は」
「東京にはこんなとこないやろ」
「そうだね。空気が全然違うもん」
なぜか自慢気な勇介に、私は振り返って笑ってみせる。
勇介は、昔からなんだかんだこの村が好きだった。
こんな村とか、都会に出たいとか言いながら、田舎を馬鹿にすると怒るし、近所付き合いも大事にしてる。
だから、だろうか。
私は右の手首を押さえる。
勇介は私が東京に引っ越すことになったとき、どう思ったのだろう。
「ひぐらしが鳴き始めたな」
勇介の声に我に返り、その言葉に耳を澄ます。
ひぐらしの声なんて、久しぶりに聴いた。
「いいな、ここ。これから散歩に来ようかな」
立ち止まり、上を見上げてぽつりと呟く。
勇介は何も言わず、私と同じように空を仰いだ。
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