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青い空。
真っ白な入道雲。
濃い緑に響く、蝉の声。
二年半ぶりに訪れた土地に降り立って、強い日差しに目を細める。
変わらない景色。
懐かしい匂い。
山に囲まれたこの小さな村で、私は中学卒業までを過ごした。
「おじいちゃーん、おばあちゃーん」
おじいちゃんの家に到着し、私は戸を開けて声を掛ける。
「いらっしゃい。おつかれさん、暑かったやろ」
「久しぶりやなぁ。元気そうやないか」
二人揃って玄関まで出てきて、うれしそうに笑って迎えてくれる。
「これから二週間、お世話になります」
妙に照れくさい気分で私も笑って、ぺこりと頭を下げた。
この夏、私はひとりで故郷の村へ戻ってきた。
父は仕事、弟は部活、母は二人の世話。
私はというと、高校三年、つまり受験生のくせに塾にも行かず、学校の夏期講習にも参加せずだらだらしていたので、いっそ何もない所へ行って勉強したら、と母に送られてきたのだ。
こっちに戻ってくるのは、父の転勤で引っ越して以来。
今は、東京に住んでいる。
正直、私はこの村のほうが好きだ。
引っ越したくなんかなかった。
都会は都会で楽しいけれど、私には田舎のほうが合っている。
だから、ここに戻ってくる機会ができたのはうれしかった。本当に。
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