END


式が終わると、三年生は門まで花道を通って帰ることになる。そのときに、後輩や家族や知人から花束をもらったりする。

私はもちろんそんな相手はいない。
今日は、両親も仕事で来れなかったのだ。

体育館を出ると花束を持った人たちが目当ての三年生を待ち構えていて、ものすごく混雑していた。
クラス順だったがもはやそんなことは関係なくなっていて、出るに出られなくなっている。
私は早々に脱出するのを諦めて、少し落ち着くのを隅のほうで待っていた。

ぼんやり騒ぎを眺めていると、ふいに隣りに人の気配がした。
びくっとして視線を向けると、花束やプレゼントやらをいっぱい抱えた堀くんが、私と同じように壁に凭れていた。

私は目を丸くしたが、堀くんはいつもの無表情をこちらに向けてくる。
それから何も言わず、持っていた花束をひとつ私に差し出してきた。

「おめでと」

私が首を傾げると、堀くんは短くそう言って、早く受け取れというように花束をゆらゆらと揺らす。
咄嗟に受け取ってしまったものの、私は一瞬何が起こったのかわからなかった。

「あ、ありがとう!」

だけど、去っていく掘くんの背中を見て、反射的に声を掛けてしまった。
周りの声に掻き消されるような小さな声。
でも、堀くんにの耳には届いたようで、彼はこちらを振り返って、笑った。深く笑って、すぐにまた背を向けた。

今まで誰にも向けられたことのなかった優しい笑みに、思わず泣き出しそうになってしまう。
彼らしい優しさのつまった花束に、私は涙を隠すように顔を埋めた。

ひとりだったわけじゃない。
堀くんが一緒にいてくれた。
あの場所で何も言わずに彼がいたことで、私はとても救われていたのだ。

花びらの上に涙が落ちる。
ふと甘い花の匂いの中で、苦い煙草の香りが鼻を掠めた気がした。

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