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嫉妬してる?

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これは彼女が有馬の元へ戻されたばかりの頃のお話。

ごめんね。
言うが早いか、片手で丈の背中を支えてもう片腕を膝裏に。
そのまま横抱きにすると、琥珀は素早く後退した。
直前までいた場所を赫子の刃が穿つ。
ふッ──!
短く息を吐いて、二歩、三歩。
十数メートルの距離を取って動きを停止。琥珀は敵を見据えた。
相手は単体。
一対一の格闘なら絶対に負けない。
丈との連携も使わずに終わらせられる。
丈にはかすり傷ひとつつけさせはしない……。
暗闇から此方を見る赤い光から目を離さないでいると、「琥珀」と彼女を呼ぶ声が琥珀を現実に戻した。
「え、あ…ごめん、なに?」
「………そろそろ下ろしてくれないか」
「へっ?」
言われてはじめて気がついた。
「あ、…はい」
喰種の自分にとって、人一人の重さは"重たい"には入らないし、人を抱えての移動も慣れている。
ただし今までは対象を昏倒させて運んでいたので、荷物のように扱ってしまったかもしれないが。
琥珀が、お姫様のように抱えていた丈を地面に下ろした。
丈はそのまま無言で琥珀を見下ろす。
…気に触ったのだろうか。
「えと…ごめんなさい。苦しかった?」
やっぱり雑だったかもしれないと、琥珀は内心反省する。
「…いや、そういうわけではないんだが……」
「?そういうわけじゃなくて?」
丈は何かを言おうとして口を開くが、しかしすぐにまた閉じ、口許を押さえて黙り込んでしまった。
「丈兄?」
「………」
幸い敵に動きはない。琥珀はそちらへ注意しつつ、しかし丈の一挙手一投足も逃さないように見つめる。
喰種と戦った経験なら勿論あるが、しかし喰種捜査を行う立場からとなれば話は別だ。
篠原と真戸の元でしばらく世話にはなったが、正規の教育を受けたわけでもない、新人以下のど素人だ。
自分のとった行動が良くないものであるなら、しっかり注意を受け、直していかなければならない。
与えられた役割を全うしなければと琥珀の瞳は真剣だ。
「…琥珀」
「はいっ」
「……」
丈はもう暫し考えた末、ぽん、と琥珀の頭に手を置くと──
ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ
「待機」
「は、はいっ!」
琥珀はもじゃもじゃになった頭のままで力いっぱい頷いた。


丈の戦いを見守る琥珀の元へ戻ってきた有馬は、琥珀、というより、もっさりと爆発しているその頭に向かって話しかけた。
「琥珀、どうしたの?この頭」
「お帰りなさい有馬さん。これはその、丈兄…平子一等に待機って言われて」
こんな感じに…。
喰種を仕留めてクインケを仕舞う丈の背を見ながら、琥珀は有馬に答えた。
「タケが?酷いことするな」
「そ、そんなに酷いことになってますか?」
琥珀の頭に目をやった有馬が、乱れた髪を一房ごと掬って整えてやる。
驚いた琥珀は自分で直しますと慌てたが、「大丈夫、結構器用だから」と断られてしまった。
さらり。ふわり。甘い香りが漂う。
「タケに何かした?」
「いえ…?」
目撃情報を頼りに捜査をはじめて遭遇したのは二体の喰種。敵が二手に分かれたために、有馬が一体を追って別行動をとり、残った一体を丈と琥珀が対応した。
その内に喰種が攻撃を仕掛けてきたので、琥珀がひょいっと…
「軽く抱えて運んだだけですけど…」
「軽く抱えるって、タケを?」
「はい。えっと、」
こうやって、と横抱きにするジェスチャーを有馬に見せる。
「そう。それかな」
「えっ、えっ…!?」
「…有馬さん、終わりました」
「うん。少し待ってて。琥珀の髪を整えたら戻ろう」
戻ってきた丈は無表情だったが、琥珀と、その髪を手に取る有馬を見て、ごく僅かに、ものすごーく僅かに眉を寄せた。
「タケ、嫉妬は良くないな」
「…嫉妬ではないです」
「丈兄ごめんなさい、私、昔から力持ちだったから、つい…」
「ちょっと待て琥珀、嫉妬というのはそこに関してじゃない」
「ほら、やっぱり嫉妬していたんじゃないか」
「だから違います有馬さんどつきますよ」
「!? 丈兄落ち着いて…!」
「琥珀、タケが恐いから俺達は先に帰ろうか」
「…わざとやっているでしょう有馬さん」


捜査に慣れるという名目で同行した琥珀だったが、その後しばらくは戦わせてもらえなかったという。


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