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ハイルちゃんにおすすめしてもらった漫画を読んでいたら。主人公の女の子がキラキラ男子に迫られて、あごクイとか、壁ドンとか。
ドキドキな展開すぎて読む手が止まらなくなってしまいました。
お休み丸一日を使って読み終わって、しばらく私の脳内が女子高生のときめきで埋もれてしまうほど。(少女漫画ってすごい…)
その数日後、3月14日のホワイトデー。
丈兄に、チョコのお返しは何が良いかと聞かれた私は、頭に浮かんではふわふわ、漂ってはちらちらと離れなかったこのワードを…ポロリしてしまいました。
「あ…、」
「………?」
「あご、クイ、って…、知って…る?丈兄……」
「………顎を…?」
「…うん」
「…顎を………喰い千切る嗜好のある、喰種か何かか?」
通じるとは思ってはいなかったけれど一縷の望みもちょっとはあって、もし、もしも丈兄にクイってしてもらえたら恥ずかしいけど嬉しくてドキドキして死んじゃうなんて思ったりしてて。
でもそれよりも。
漫画の影響でそんなおねだりをしてしまった自分というものが何となく居たたまれなくて、私は、
「や、や──、やっぱりなんでもないからっ!」
丈兄をひとり置いて、その場から逃げてしまいました。
(つ、次に会ったときどんな顔をしたら……!)

「………。」
ホワイトデーに何を返せば良い?と尋ねると、3月14日というのを忘れていたのだろう、琥珀はきょとんとしてから、唇に指をあてて考えはじめた。
しばらく返事を待っていると、急に琥珀はぽっと顔を赤くして、「無理…っ、ああでもっ…」と頬を押さえて困ったように視線を落とした。
うつむく琥珀の頭が動くたびに、さらりと髪が流れて揺れて、赤く染まった耳が見え隠れする。そして、
「あご、クイ、って…、知って…る?丈兄………」
赤い顔のまま視線を迷わせ、小さな声で言う。
言わんとするものがわからずに俺が頭を捻ると、琥珀はすぐさま、
「や、や、……やっぱり何でもないからっ!」
物凄い勢いで走り去ってしまった。
よくわからなかったが琥珀が望むのなら…。
「(誰かに聞いておこう──)」
とりあえず喰種の話ではないらしい。そう思った矢先、たたたたたっ、と琥珀が風の如く走って戻ってきて言った。
「い、今のことはっ、他の人とかに聞いたりしなくていいからねっ…!」
わすれていいからねっ…!
俺の胸に体当たりしそうな勢いでスーツを掴んで、真っ赤な顔の涙目で訴えると、来た時と同じ勢いで走り去った。
…。どうやら人にも聞いてはいけないらしい。
「………。」
俺はスーツのポケットから携帯を出して電源を入れた。


夜。仕事を終えて丈は琥珀を呼び出した。
電話の向こうで琥珀が狼狽えている様子がとてもよくわかったが、仕事が長引いてしまい、今後もしばらくは忙しい日が続きそうだったので、こればかりは譲れなかった。
琥珀が寝泊まりする本局別棟の入り口で待っていると、スーツから着替えて普段着の姿の琥珀が現れた。
琥珀が何かを言う前に丈は辺りを見回す。
「え、な、なに…?どうしたの…丈兄──」
「………」
昼間のことを思い出してか琥珀は、丈をちらりと見たきり、顔を赤らめて居心地が悪そうだ。
丈は琥珀の手を引くと、無人のフロアの端へ行く。
時間も遅く、照明も最低限まで落とされているために隅は薄暗かった。
「…ね、ねぇ……ほんとに、どうしたの……?」
「………琥珀、」
「え、あっ…、はい──」
周囲に人の気配がないことを確認した丈が琥珀の両肩をがしっと掴むと、勢いにのまれた琥珀は、つい背筋を伸ばして返事をした。
丈の手が琥珀の顎に触れる。
昼間に丈は調べてみた。顎クイというものを。
正直なところ、自分がこれをやるのかと想像したら、丈も思考停止しそうになった。
しかし頼んできた琥珀もあんなに真っ赤になって逃げ出したのだから、恥ずかしいのはお互い様だ。
軽く力をいれて上を向かせると、想像が至った琥珀はぴくりと肩を揺らした。かぁっと染まった頬の温度が丈の指に伝わる。
ぱくぱくと何かを言いたそうに呼吸する琥珀の唇。
丈はキスを落とした。
小さく息と声とを漏らす琥珀を逃がさないように頬に手を滑らせる。
ふっくらとしてやわらかな琥珀の唇の感触を、優しく押し潰して楽しんで。終わりに軽く食んでから、丈はゆっくりと離れた。
手を離すのはまだ惜しく、そのまま頬を撫でる。
「………。期待には…応えられたか…?」
「……ものすごく……、照れました………」
「…俺もだ」
丈の胸に頭をくっつけて琥珀は、ごめんね、と、ありがとう、と口にした。
最後に「してくれて、嬉しかった」と言った琥珀は、顔だけでなく全身が発熱しているようだった。
丈も琥珀も、今、体温を計ったらどれくらい上がっているだろうか。
琥珀の背中を、丈も照れ隠しをするようにぽんぽんとしばらく叩いていた。


170314
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